戻る

インターネット会報2004年1月号  
突発性難聴になって 精神的・身体的ともに、疲れすぎに注意しましょう 
貴志 清一


 3年ほど前2001.6月号で「警告!(耳鳴りは大丈夫ですか?)」と言う記事を書かせていただきましたが、覚えていらっしゃるでしょうか。  合理的な吹奏法を会得しますと、息が効率よく音に変換できますし、またそのことによってややもすれば圧力をかけたくなります。いわゆる「ビュービュー吹く」という感じです。  ただこの時に、息の量を増やさずに圧力ばかりかけますと「耳」に負担がかかります。そのことを注意するためにこの記事を書かせていただいたのでした。    耳には割合気をつかっていたのですが、その本人である私が尺八からではなく、おそらく「疲れ」(精神的、または身体的、またはその両方)から突発性難聴になりました。  2003.11.29急に左耳に圧力を感じ耳鳴りがして音がはっきり聞こえなくなりました。翌日大阪府泉佐野市奥野耳鼻科の奥野先生に見ていただき突発性難聴だという的確な診断を頂きました。  お薬を頂いたのですが、はかばかしくなく、次の週の火曜日から毎日点滴も開始しました。一時は左耳が全く聞こえない状態に陥り、片耳だけの立体感のなさに情けない思いをしました。人の話し声がどこからくるのかが分からないし、ピアノを弾いても低音・中音・高音の区別もままなりませんでした。しかも自分の尺八の音が頭の中でワンワン鳴って吹奏どころではありません。まったく「音楽の演奏」を一生あきらめなければならないのかなと暗澹たる気持ちになりました。  しかし、毎日点滴に行き、診察していただきまして、1ヶ月後の今おかげさまで9割がた快復しました。少し耳が詰まった感じが残っていますし、自分の尺八の音がすこし変に共鳴しますが、やっと吹けるようになりました。  治療が遅いと全く直らないという話も聞きますので、ほんとうに今回は奥野先生に感謝しております。    尺八愛好家のみなさんも、是非、疲れすぎにはご注意下さい。音楽をしている人間にとっては、とくにこの突発性難聴はたいへん困ったものです。  個人的な体験ですが、何かのヒントにしていただき、尺八を末永く演奏してください。    参考までに、会報69の記事を引用しておきます。  

・・・・それは、尺八をビュービュー吹けるようになるとつい息に圧力をかけすぎまして耳鳴りが生じるという弊害です。  正しい指導を定期的に受けている方は、圧力をかけすぎる弊害を師匠に注意されて難なく過ぎるのですが、ご自身が教える立場の場合、また、優れた師匠に恵まれない場合は耳鳴りという厄介な問題が生まれます。    「尺八吹奏法T」は人並みの努力をすれば尺八を十分鳴らすことができる方法を述べております。  従いまして、適切な指導の下では音を十分出すために10年も20年もいりません。  そして、音が十分出てきますと誰しもより強い圧力を息にかけて音を出そうとします。それは自然なことでもあります。  唇を舐めるようにして息が出ていきますと、かけた圧力の分だけ音になります。この感覚は大変魅力的でして、ややもすれば癖になります。  特に一尺六寸管ではこの傾向がはっきり出ます。    私も過去に調子のいいときはこのビュービュー吹くという魅力に抗しがたく、練習したあとは必ず軽い耳鳴りがしたときもありました。  しかし、恐がりというのでしょうか、この耳鳴りは御免蒙りたく六寸管の練習を止めました。    

ある時私の師匠が何気なく 「音の大きさ(鳴り)は息に圧力をかけるのではなく、息の量で出すのだ。それは遠音がさすことにもつながる。」  と、おっしゃいました。  この言葉は私にとって“値千金”の助言でした。  いままで耳鳴りが怖くて尺八を鳴らしたいのに鳴らせないというもどかしさが、このたった一言で救われました。  春の海のハローを息の圧力ではなく部屋いっぱいに広がる気持ちで息の量を増やしていって鳴らすということが分かったのです。  もちろん雑音、風の音等を増やすのではありません。    ですから、「尺八吹奏法T」に書けば良かったのですが、紙面の関係で掲載できなかったことをお詫び申し上げます。    

さて、尺八をビュービュー吹けるための復習を、ごく簡単にしておきましょう。  

@ 尺八は腹部に力を込めて、腹の下から吐くように息を出しましょう。  

A尺八吹奏の口の形は「口笛」の口に近いことを覚えましょう   良い吹奏のためには自分の噛み合わせの位置から下顎を無理なく落とし、下歯の先端が息の流れを阻害しないようにするのがよい。(私の場合は上 歯・下歯の間が0.3〜1cmほどですが、個人差も有、また乙音・甲音で変わります。)この感覚は「口笛」を吹いていることの感じに近いのです。原則は何よりも“下歯が息の流れの邪魔にならないような形に保つと言うことです。そのためには昔のように口を真一文字に横に引っ張ってはいけません。          
B唇の赤い部分に力を入れてはいけないのです。  唇の赤い部分に力を入れず、唇が外へ押し出される感じで息を入れてみて下さい。  唇の赤いところには絶対力を入れてはいけません。しかし、唇を取り巻く筋肉群ははしっかり支えなければいけません。この矛盾を解決するヒントも口笛を吹くことなのです。  例えば、口笛を鳴らしているとき、ほんの少し唇の赤いところへ力を入れますと、途端に鳴らなくなります。  そういうことです。口笛というのは尺八吹奏にとってきわめて得るところの多いものです。  
C口笛練習法を活用しましょう。 a「唇はしっかり支えるのだが、唇の赤い部分には力を入れないこと」 b「下歯が息の流れを絶対阻害しないようにする」  このa,bは習得することが難しいものです。  しかし、このa,bを体得するきわめて効果的な方法が「口笛を吹いて息の流れを感じる」ことなのです。  これはすばらしい方法で、フルートの神様といわれたM.モイーズが述べているやり方です。  一日に10分以上注意深く口笛を吹いて下さい。きっと良い結果が尺八に現れると思います。  唇の赤いところに力を入れると尺八の音が悪くなりコントロールも効かなくなります。それを口笛練習によって「唇の赤いところに力を入れ無い」感じを体得するのです。  また、口笛練習はbの「下歯が息の流れを絶対阻害しないようにする」感じを体得する最良の方法なのです。口笛を吹いているときは、ある程度下顎が下がりますが不自然には感じないはずです。尺八でも口笛と同じ下顎の位置で吹きましょう。上唇の丸みさえあればビュウビュウ尺八が鳴るはずです。  

音が貧弱な場合、下歯が息の流れを阻害していないかどうかということが問題になります。私は下歯のよる気流の阻害を避けるために口笛による訓練で解決しています。  ややもすると下歯が息の流れを阻害するものなのです。尺八を吹いている口のまま、息の出口から爪楊枝をそっと差し入れて下さい。もしそれが下歯に当たるようでしたら明らかに「下歯が息の流れを阻害して」いるのです。    つぎに、口笛を吹いて下さい。口笛を吹いている時にやはり同じく爪楊枝を挿入しますと下歯には当たらないはずです。この感覚が大切なのです。

D上唇の丸みと偏心角について知りましょう   ○唇の丸み  尺八を吹くときの大切な点は、「唇の内側の柔らかい粘膜室のところで吹く」ということです。これがよい音を出す秘訣なのです。この「唇の内側の柔らかい粘膜室のところで吹く」ということを別の言葉で言いかえますと、「つねに上下唇に適度な丸みを持たせる」ということになります。実は、この唇の適度な丸みこそが、いい音作りのための本質的な要素なのです。  唇の内側の柔らかいところで吹くためには唇を、少し外側へせり出さなくてはなりません。外側へせり出すことによって下唇は尺八の歌口の“ふた”の役目もできますし、上下唇は丸みを増しますのです。  この唇、特に上唇の丸みが少ないとほんの少し尺八のエッジ(切り口)に当たるポイントがずれても、もう音は鳴らなくなります。言いかえると、唇の丸みが少ないとそれだけ音の鳴る効率が悪くなり、音はうすっぺらくなり自由自在に吹けなくなるということです。  反対に、この唇の丸みが大きいと、少しぐらい尺八のエッジから息がそれても音は鳴り、それだけ音は豊かにろうろうと鳴るのです。その上、鳴るポイントが大きい分だけ音のコントロールも効き、自分の思い通りの演奏ができるのです。  

【秘訣】  「唇の丸みが大きいと、少しぐらい尺八のエッジから息がそれても音は鳴る。」と言いましたが、実は低音の音を朗々と鳴らす秘訣は「出す息を1~2mmほど内側へ当てる」ことなのです。この当てる角度をcmで表したものが偏心角といいます。  この秘訣を言いかえますと、息を筒の中に吹き込むような感じで吹くのです。勿論唇がもぐってしまう“メリ吹き”ではありません。低音域を十分に鳴らすためにはこのことが絶対必要なのです。  (秘訣)と書きましたが、このことは低音を朗々と鳴らすことのできる演奏者ならみんな実行していることです。    さて、歌口の「少し内側へ息を吹き込む」ためには、唇は絶対丸くなくてはなりません。唇の丸みがあるために少し尺八のエッジから息がそれても音が鳴るのです。唇の丸みもなしに内側へ息を吹き込んでも音はでません。古曲などでは、始め大緩のゆっくりしたテンポで始まりますので息を静かに吹き込んでいる間に自然と唇の丸みを作れますが、新曲・現代曲ではそうも行かず、勢い最後まで調子が出ずに終わることもあります。  本当にこの唇の丸みを習得していなければ良い演奏は望めないものです。  

E上唇裏の口腔前庭について  (下唇裏の口腔前庭は作らない方がよい結果が得られる。)    この口腔前庭は、尺八吹奏にとってひとつの“コツ”に当たります。 口腔前庭というのは息を出す時にできる、上唇裏のごく小さな空気部屋のことです。  下唇の裏にもこの口腔前庭はできるのですが、その場合ややもすれば下歯による気流の阻害と言う問題がでてきますので、吹奏時には下唇裏の口腔前庭は不要だと思います。  前にも述べたように、下歯による気流の阻害がない状態を体感するには口笛を吹くのが一番良い方法です。   分かりやすくするために口を閉じて息をためて下さい。上唇を軽く押さえますとそこに小さな空気の部屋ができていることが分かるでしょう。この部屋のことを口腔前庭と言うのです。  実際の演奏ではこの口腔前庭はそんなに大きな空間ではありません。ほんの少しの意識しなければあるかないか分からないほどの隙間です。  この口腔前庭は、吹くことによって形成されるもので吹いていないときはできません。音に応じてこの口腔前庭に少し空気がたまりますと音のコントロールが良くなります。  ただし、口腔前庭に空気をためることを目的にしてはいけません。そうしたときには、一番肝心の「唇の丸み」が阻害され、ややもすると下歯が気流を阻害するのです。気をつけて下さい。  腹式呼吸のための肺はいわば大きな“空気のタンク”です。それは大きな空気の柱をコントロールしています。しかし、これは送電線の何万ボルトと言う高圧電流のようなもので、そのまま使えば一般家庭の電気製品が壊れてしまうのと同じで、尺八の音のコントロールはできません。   このほんの少しの上唇裏の口腔前庭で甲音から乙音まで音を自由にコントロールしてください。  

○ ユニバーサルアンブシュア このユニバーサルアンブシュアは、わたくしだけの技法ですので、真似をする必要はありません。 しかし、このユニバーサルアンブシュアによって、本当に尺八のコントロール、どんな尺八でも十分鳴らすことができる、言いかえれば、いい音のための息をどんなときでも出すことができるのです。  原理は簡単で、私の場合、音を出す直前に舌先を下唇の裏に触れさせ、息を出したら離します。しかし、息が終わる頃にまた舌先を下唇の触れさせきわめて小さな・安定した音でフレーズを終わらせます。これだけのことです。 以上、吹き方の参考にしてください。また、どうしても実演をごらんになりたい方は拙宅までお越し下さい。
その節は往復はがきにてお問い合わせ下さい。   590-0531 大阪府泉南市岡田2−190 貴志清一