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インターネット会報2004年8月号

【解説】 もしも尺八ができたなら...」                          貴志清一  



 尺八吹奏研究会のまとめ役をしていてよくある質問が 「どうすれば尺八が上達するのか」 です。こうした質問をする人たちはだいたい次の2つに分けられます。

1.尺八を習い始めたので、尺八を簡単に修得する近道を知りたい。
2.今まで多くの時間をかけて練習したり、師匠について稽古をつけてもらったりしたのに、なかなか上手にならない。

1の人に対しては、「尺八を簡単に修得するのは無理です。しかし、正しく、合理的な練習法をスタートラインにすれば、上達までの道のりを最短距離にすることができます。」というのが私の意見です。  この場合の正しく合理的なスタートラインとは、「どうすれば良い音色が出て、自由自在な音のコントロールができるか。如何にすれば尺八のらしい演奏が可能か」をまずきちんと理解することだと考えてください。 2の人たちと話す機会が多いのですが、「尺八の基本を誤解している」と思うこともよくあります。この人達は私よりも長い年数、そして長い時間練習を重ねてきた尺八愛好家たちです。  これらの方々の問題点は、本人は頑張っているつもりでも、練習している方向そのものが間違っていることです。  いくら力を入れてねじを回しても、回す方向が反対だったらねじは締まりません。尺八も同じです。  この間違った方向の一例として「口を真一文字に結んで息を吹き出す」吹き方があります。これは唇の柔軟さをなくし、上唇の丸さをなくし、上唇裏の口腔前庭をつぶしてしまい、結果として貧弱で柔軟性に欠けた音になってしまう悪い癖です。  まだ、このような「口を真一文字に..」式の吹き方をしているかたは「尺八吹奏法T」をお読みください。  さて、「尺八は難しい」と考えている人は多いかも知れません。しかし、尺八の先輩して言わせていただくと、「そもそも尺八を十分演奏するにはかなりの努力が必要だ」といえます。  尺八はフルートより難しいと信じている人(そういう人は、たいていフルートを吹いたことがないか、吹いても下手な人)もいます。  しかし、フルーティストに「フルート、簡単?」と聞いたらおそらく「簡単なわけない」と怒られるはずです。たとえどんな楽器でも、それを修得するには大変な努力が必要です。  歌口だけを比べて、「尺八はフルートの台座(唇を当てるところ)まで自分の口で作る必要がある、だからフルートの方が簡単」というのは大間違いです。尺八もフルートも音色の追求と言う面では同じく非常な努力が入ります。  [お稽古に通いさえすれば尺八は上達する]というもの間違いです。  お稽古以外の時間にどれだけたくさん練習したかに、尺八上達のカギがあると言えます。そして、一緒に練習したり聞き合ったりする「やる気」のある同志を見つけて、何人かでグループを作っておくと何かと心強いものです。そのためにも、師匠の所へ習いに行くのはこういう機会を作る元になります。  

多くの尺八愛好家は、動機はなんであれ「尺八を修得したい」と考えています。しかし、「尺八を高い水準」で演奏するのは大変なことであるのも事実です。  特に周りに上手な人がいて朗々と尺八を鳴らしていたり、「春の海」の速いところをいとも簡単に吹きこなしていたりすると「もう、尺八がいやになった」というぐあいに消極的になったりします。  しかし、そんな時こそ「いつか俺だって!」という積極的な気持ちを持ちましょう。  ただ、メソッド(体系的指導課程)の伝統の少ない尺八においては、この「やる気」や積極的な態度を持ち続けている人でさえも尺八修得に失敗することが少なからずあると言うことが問題なのです。  琴古流の故山口五郎師のように極めて高い水準で尺八をマスターすることは至難の業ですが、本曲を朗々と吹き、または「春の海」を滞り無く吹き通す、もしくは「萩の露」をおさらい会で上手に合奏する.....という段階では、特別な才能はいりません。ただ、合理的な練習法と一定の練習時間、そして積極的な気持ちがあればこの段階まで到達できるはずなのです。  この「合理的な練習」が尺八界ではあまり研究されてきませんでしたのでその分だけ挫折者が多かったということなのです。  

話は変わりますが、最近の風潮でしょうか「尺八は楽しい。老後の楽しみだ。」ということを前面にだすことも見られます。しかし、私に言わせれば「尺八を吹くことの全てが楽しいわけではない。」ということです。  おさらい会で間違ったときの恥ずかしさ、思うように音が出ないときの悔しさなど、尺八を修得するにはたくさんの苦労も必要です。時には、「もう今日限り尺八はやめた!」と尺八をほとんど嫌いになったこともなきにしもあらずです。また鳴らないのを竹のせいにしてヤスリで歌口をあちこと削って、結局前よりも鳴らなくなってしまったこともあります。  尺八を「楽しみながら」練習しようと思っている人は、たとえ合理的な練習法をとり良い師匠に巡り会えても最初の壁にぶつかったときに「もうやめた」となってしまう危険性が大きいと思います。    もちろん、尺八を吹いていると「楽しい」瞬間もたくさんあります。 たとえば、『上唇裏の口腔前庭の感触』を体得した時、「尺八の甲乙が滑り台のようになめらかに、しかも良く響く音で吹ける!」という幸せな気分が何日も続きました。最近では2年前、ユニバーサルアンブシュアという名の、舌を下唇にあらかじめ触れさせておいて発音と同時に離しまた音の末尾で舌を下唇に触れさす技法で、どんな甲音であろうと虚空に消えゆく音の処理ができるようになった時の高揚した気分があげられます。それでなくても、練習で思うように本曲が吹けた日は格別です。  「楽しみながら尺八を吹こう」というのは残念ながらウソでしょう。  でも、苦労しながら辛い練習も繰り返して「その段階で、うまく尺八が吹けるようになったらすごく気分がいい」というのも本当です。    

実際にどう合理的に練習していくかは、良い師匠に聞いてそれを実践することなのですが、ここでは特に「尺八を軽い気持ちで楽しもう」という間違った考えに惑わされず、「尺八は、難しいから面白い」というぐらいの心構えで練習していくことを強調したいと思います。  尺八吹奏研究会では会の目的(尺八の合理的な吹奏法を啓蒙する)のために講習会を年間1,2回開催したいと考えています。  第1回目は8月1日(日曜)大阪にて実施済みです。今回は本会よりご案内をお送りした方に限定させていただき、3名のご参加がありました。  講師の尺八演奏と合理的吹奏の話、参加者への30分程度の個人指導、その後の尺八に関する談話という内容でした。  次回は秋にと思っていますが、ホームページをご覧の方にもご参加できる方向で計画したいと思います。会の趣旨より流派、経験年数は問いません。  

尚、本会からの案内・要項の郵送をご希望の方はその旨封書等でお知らせいただければ事前にお知らせ致します。
〒590-0531大阪府泉南市岡田2-190 貴志清一宛