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インターネット会報2004年11月号

【解説】 古鏡を吹奏して(体験記) 2004年」 貴志清一   
(文末:尺八吹奏研究会第12回演奏会 古鏡・竹隠・竹翁等 古管、名管による尺八の歴史2004.11.20(土)の案内)                                         
   はじめに初代黒沢琴古と同時代の古鏡作、所謂「古鏡」と言う古管・名管を吹奏す る機会を与えてくださいました大阪の 前島竹堂先生にまず御礼を申し上げます。  先生ご自身、製管をなさりその竹は地無しのべ竹で、大変高度な技術を要するにも かかわらず立派な尺八を数多く作っていらっしゃいます。  竹堂銘の2尺5寸管をひとつ吹かせていただいても、暖かい深い音色がします。私 は主に1尺8寸管を吹きますので、自分に長管を吹く技術があればなあと悔やまれま した。指が短いので長管の手孔が直線に並んでいると、とても対応しきれないことも 吹けない理由なのでよけいに悔やまれます。  

さて、先生は製管にも堪能なのですが、古管・名管もたくさん収集していらっしゃ います。  ここでは、新しい時代から遡って先生のお宅で吹奏させていただいた古管・名管に ついての感想を述べさせていただきます。  各管はだいたい標準管前後の長さです。

○勝浦正山の正山銘  いわゆる「標準的な竹かな」と思いました。
○三世荒木古童銘  管尻の根も落とさず、今の竹のようにバリバリ鳴ると言う感じでした。 コロを速 く吹いても乱れずに鳴る、性能のいい竹でした。音色としては少し荒いかなと思いま した。私の持ち竹「一城銘」も今風に良くなるのですが音色がもっと優しいので、戦 前すでに性能的にすぐれている尺八が成立していたという証拠になると思います。息 も圧力をかければその分びゅーびゅー鳴る感じの尺八でした。
○琴童銘  私の吹いた琴童銘は名声の割には標準的な竹かな、という感想を持ちました。後で 述べる竹翁と三世古童の中間を行く竹みたいでした。
○竹翁(二世荒木古童)  手孔が小さく、若干メリ音に工夫が要るようです。出る音は立派でさすが竹翁自 身、尺八吹奏にも秀でてたことを感じさせます。  ただ、竹翁は三曲合奏も良くしたと永井荷風などが述べておりますが、この手孔で メリ音をすばやく明瞭に出すことは工夫が要ったのではと思いました。
○竹隠(三浦琴童と同じくらいの人)  琴童の活動と同じ時代の人ですが、この尺八は音色が感嘆するほど素晴らしい。吹 けば吹くほど良い音色のでる竹です。そして音色だけではなく、メリも素直にできる し、コロも明瞭に出ます。  本曲、三曲を問わず気持ちよく吹奏できる絶品でした。こんな竹が制作できるのか と驚くほどの良い竹です。前島先生の「製管師が目標とする竹」というお話も、なる ほどと納得がいきました。
○古鏡1(細身で短い、一尺六寸六分)   細身で短い竹で、歌口の感じは一節切に近いほど筒も細いものです。 今の尺八と 違い、かなり歌口が小さいので音色を見極めるまでにはいきませんでした。蒔絵をほ どこした立派なものです。元禄ころの「三節切初心書」に書いている、「はじめは小 竹にて吹く」と言う文のまさしく「小竹」がこれに当たるかと思いこの本の記述を裏 付けるような尺八です。
○古鏡2(一尺八寸より少し長く、一尺九寸七分)  古鏡は初代黒沢琴古と同時代の人です。浦本浙潮の名言「刀は正宗、尺八は古鏡」 と言うのがあります。しかし、私は 「1700年代を生きた人だからかれこれ250年以上になる。その時代に良い音色 の性能のいい尺八なんか、存在するはずがない。古鏡というのは、“江戸時代中期の 割合には、”まあまあ鳴る竹かな」と思っていました。 「元禄を境にして陰音階(都節音階)が出てきたのだから、たとえ三曲合奏の必要が あったにしても、50年そこそこでメリ音まで対応できる尺八なんかあるはずがない し、音色も昔のことだからそこそこで、吹く息に答えてビューと鳴る尺八など明治大 正にならないと出てこなかったに違いない。」と浅はかにも考えていたのです。  

この考えが古鏡を吹いたとたん消え去りました。  あまりの音色の素晴らしさに身震いさえ覚えました。なんという暖かい音色、艶の ある音、むやみやたらに大きい音ではなく息に答えて朗々と響き虚空に消えていく 音。尺八に関して、今までこれほど驚いたことはありません。  なるほど、コロなどは今ほど派手な奏法は要らないので、おとなしいコロです。し かしこれは欠点ではありません。そして、メリは竹翁の竹でも少し出にくいのだから 難しいだろうと思ってましたが、予想に反してきちんと出るのです。  これなら今使っても十分対応できる、むしろ、今の竹以上だ。  地無しのべ竹の古鏡の音色や吹き心地を越える竹は今作れるのか?という気持ちに なってきました。  二百数十年昔に思いをめぐらせば、天才と言っても過言ではない古鏡は、いま手に している「古鏡銘」の尺八に何百、何千回と息を通したはずです。その古鏡の息を通 した尺八を今自分が再び吹いていると考えるとき、思わず深い歴史的な感興を覚えま す。  この素晴らしい鳴りの尺八から言えることは、「製管技術は江戸時代は未熟では決 してなかった。むしろ、古鏡などは製管技術の最高峰を極めていた」ということで す。  西洋に例を求めれば、ヴァイオリンのクレモナやストラディヴァリウスが古鏡に当 たるのではないでしょうか。  今の技術で、どんなに計測し全く同じように制作してもストラディヴァリウスのよ うな素晴らしい響きのヴァイオリンが作れないのと状況が似ています。  

今回、古鏡を吹かせていただいて製管に関しては江戸時代は未熟ではなく、むしろ 一つの頂点を極めていたことを勉強させていただきました。  この記事は尺八吹奏研究会会報193号をもとにしていますが、この話をお読みい ただいた方々より、是非その音色を聞かせて欲しいとのご希望がありました。  その機会には、、古鏡で「山谷菅垣」竹翁で「下がり葉」、琴童で「手向」を吹 き、竹隠で「巣鶴鈴慕」、そして三世古童で「鹿の遠音」、最後に再び古鏡で「夕暮 の曲」を演奏するコンサートをしたいと願っております。さらに「春の海」を現在の 一尺六寸管で演奏し、明治以降の西洋音楽が尺八に与えた影響の深さに思いを巡らせ ていただければと思っています。


尺八吹奏研究会第12回演奏会 古鏡・竹隠・竹翁等 古管、名管による尺八の歴史 出演 尺八:貴志清一    箏 :菊苑馨 
日時 :2004年11月20日(土) pm1:30会場、2:00開演(遅れないように願いいたします。)
場所 :艶舞台  阪急北千里駅徒歩10分、北大阪急行 緑地公園駅徒歩15分           
−演奏曲目− 古典尺八本曲
○ 琴古流本曲「巣鶴鈴慕」  「山谷菅垣」  「下り葉」 「鹿の遠音」等
  尺八・箏合奏
○「千鳥の曲」 ○「春の海」(宮城道雄) 
○入場料2000円(会場準備の都合で、当日券はありません。) ※6才以下のお子様のご入場は固くお断りいたします。
○チケット取り扱い: 往復はがきに「古管演奏会希望」と明記し、 申し込み者の  ・氏名(複数可) ・住所 ・電話番号 をご記入の上、下記まで お申し込みください。 返信はがきが入場券(会場地図付き)となります。 〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190 貴志清一  なお、代金は当日、受付でご精算下さい。   
※入場者数は10数人ですので満席の場合は御了承下さいませ。