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インターネット会報2006年3月号
 
「きわめて良く鳴る一尺六寸管を手に入れて、しばらく一尺六寸管は吹かないことにした話」
貴志清一
 
 毎月とりとめもない尺八についての話をお読みいただきありがとうございます。
今回も題名は何か矛盾した書き方ですが、私の最近体験した話です。
今までの吹き料の一尺六寸が今ひとつ楽にびゅうびゅう鳴らなかったので新しく作ってもらうことにしたのが昨年11月頃です。その竹が2月はじめにできあがったとの連絡を受けて喜び勇んで取りに行きました。
 もちろん手間暇と、日本でも屈指の製管師さんの高い技術をかけたものですのでいわゆる高級管です。その場で10分ほど吹いていますと、本当に良く鳴り響きます。乙ロから大甲まで自分の息にそのまま答えてくれる竹でした。何度もお礼を言って喜び勇んで家に帰りました。その竹は何度も吹いても「きわめて良く鳴る」良い一尺六寸です。いままで演奏会で少ししんどかった宮田氏の「雨の水前寺」も楽々吹きこなせます。これで3月26日の演奏会も楽しみだなと思っていました。
 ところが、私は本来一尺八寸を基本にしています。琴古流本曲をベースにいろんな方面の曲を吹いていますので、その一尺六寸を長く吹いた後いつもの一尺八寸管を吹いたのです。ところがどうでしょう。一尺八寸がほとんど鳴らないのです。痩せた貧弱な音しか出ません。正直言いまして焦りました。何故に良く鳴るはずの一尺八寸が思い通りに鳴ってくれないのか?竹に責任はないはずだからと考え、丁寧に音型練習、ロングローンを繰り返しました。すると、また一尺八寸は鳴ってきました。 尺八はかれこれ30年近く吹いていますので、この不思議な現象は以外と早く説明がつきました。

 結論はきわめて簡単で、一尺六寸と一尺八寸では吹き方(アンブシュア)を大きく変えなければならないと言うことです。
私の一尺八寸は、さいわい江戸時代の古鏡以来の伝統の普通の歌口です。先だって内径は少々変えてもらったのですが、歌口の深さ(えぐれ)はそのままです。これはメリ音と音色にとって大切で、あまり歌口は深くしてはいけないのだと思います。
さて、一尺六寸をみますと、南米のケーナほどではないにしても、一尺八寸よりは感じで1mmほど(本当はそれほどでもないかもしれない)深いのです。これは今の流行なのでしょうか。このタイプの竹を吹くコツは、唇をややペンギンのようにつきだしてこのえぐれに沿うようにして息を出すのです。そうすればフルートかと思えるほどびゅうびゅう音が鳴ります。
 ただ、私は器用ではないので、ペンギンのようにした口を即座に普通の尺八(一尺八寸)の口にすることはできません。また、そう言う風に一尺八寸以外の口を持つと、自分自身の課題である「一尺八寸で深みのある、自分独特の音色を出す」ことに支障をきたすという判断で、今のところこの一尺六寸はお蔵入りしています。たいへんもったいないことですが、現在はそう言う状況です。
これが「きわめて良く鳴る一尺六寸管を手に入れて、しばらく一尺六寸管は吹かないことにした話」のことの顛末です。
ところで、最近この手の歌口を深くした尺八がよく出回っているようですね。もし、このタイプの尺八を吹いている方がいらっしゃいましたら、一度口を少しペンギン風にして唇の一部を中にいれるようにして吹いてみてください。何割かの方はびゅうびゅう鳴ってくるかも知れません。
ただ、私としてはこの歌口を深くする傾向を手放しでは喜んでいません。音量の増大は、微妙なニュアンスを消すかも知れません。それは個性を生かす方向ではないように思います。
しかし、これだけホールでの演奏形式が多くなると音量や鳴り易さを求める人を批判ばかりもしていられません。むつかしいことですね。
 そう言えば、調律と鳴りをもとめて、いつしか竹の内部にあった「ごろぶし」(昔の竹は節を残していた)は現在ほとんどなくなっています。私自身の一尺八寸もごろ節はありません。
一昨年、DVDにも残しました「古管演奏会」で吹いた「古鏡」の深いしみじみとした味わいの音色が忘れられません。のべ竹でごろ節のある250年前の尺八ですが、それは素晴らしいものです。
しかし、毎日吹くには、あまりに吹きづらく、息を出す喜びが見いだせませんので、やはり私は今の一尺八寸が好きです。あれやこれやで、尺八を吹いていますと悩みはたくさん出てきます。しかし、これだけ複雑な楽器ですので奥が深いとも言えます。
 話は、あちこちに行きますが、3月26日の演奏会では「春の海」も頼まれていますので、あえてこの素晴らしい一尺六寸は吹かないで、フルートで演奏する予定です。尺八とフルートはかなりアンブシュアが違うので返って唇は混乱しないのです。私は、尺八古典本曲、「惜別の舞」、そして「春の海」(フルート)を演奏します。
 
 以下、その演奏会の案内をさせていただきます。
 尺八は、私と、尊敬する先輩の 神崎憲師が担当します。 
 
「菊実和 里 箏リサイタル vol.2」
日時 平成18年3月26日(日) 午後2時開演
会場 (大阪)豊中市立伝統芸能館(06-6850-1313)
(阪急宝塚線「岡町」下車西へ3分)
 
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