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  インターネット会報2006年8月号

貴志清一

「歌口の深さが4mmもある尺八は、フルート奏法が適している。すなわち、もはや尺八ではないのかもしれない。」

  先だっての会報204号(3月号のインターネット会報)に「きわめて良く鳴る一尺六寸管を手に入れて、しばらく一尺六寸管は吹かないことにした話」を書かせていただきましたが、みなさん方はどう思われますでしょうか。
この記事に関して本会会員を中心に多くのご意見をいただきました。
一つ一つ読ませていただき、大変参考になりました。紙面を借りて御礼申し上げます。
 
  実は今年(2006.8.5)の星空コンサートでは江戸時代風ではなく、今風の箏・尺八合奏曲を中心に演奏したいと考えました。「萌春」「キビタキの森」「春の海」等を演奏しますので、曲自体の要求でよく鳴る音がいります。
いままでの一尺六寸管でと思ったのですが、歌口の深さが4mmある新しい六寸があまりに良く鳴るので、それをすこし練習してきました。
すなわち、“きわめて良く鳴る一尺六寸管を手に入れて、しばらくそれを吹くことにした”訳です。
ここ、10日間ほど吹いたのですが、この歌口の深さが4mmある新しい六寸の基本的な性質がわかりかけてきました。その性質とは、一言で言えばフルート奏法に適したものと言うことです。
 
私は琴古流で、手本として山口五郎師の奏法を追求しております。とくにユリは、きわめて滑らかで柔軟な横ユリを目標としています。
ところが、この歌口の深さが4mmある新しい六寸では、それが殆どできないのです。横ユリは、息がエッジに当たるポイントが微妙に左右にずれることによって発生します。しかし、深さが4mmもあって息の当たるポイントが狭いと横ユリをしても音が出にくくなるだけで横ユリには成りにくいのです。
今、それを図示しますので見てください。(インターネット会報は省略)
この図は、イメージ図で実際の息はもっと幅も狭いと思います。
あくまでも、私の感覚を想像した図とお考えください。
(図省略)
 
  さて、この歌口の深さが4mmある新しい六寸では自分の奏法ができないと思ったのですが、「萌春」や「キビタキの森」をのびのびと演奏するべきだという自分自身の課題から、こんかい奏法を六寸に合わすことにしました。言ってしまえば簡単なことなのですが、それに気づくのに大変な悩みの時間を持ちました。

それは、フルート奏法で演奏するということです。
ユリは息の拍動でかける。そうすると、なんとびゅうーびゅう良く鳴ってきます。しかも良くないことですが、音の出だしに首を縦にちょっと振りますと音の良く鳴るポイントがつかめて、これまた良く鳴ることにつながります。この吹き方であれば「萌春」も萌春らくしなります。
ただ、残念なのですが、私も多くのフルート奏者と同じく滑らかな柔軟なヴィブラートがかけられません。私の言うのは、たとえばJ.ゴールウェイのようなビロードの生地のようなヴィブラートです。
今回に限って、この歌口の深さが4mmある新しい六寸で、フルート奏法的に演奏するつもりです。

しかし、考えてみますと尺八でわざわざフルート奏法をする必要性があるのでしょうか。それは、尺八の伝統を壊すことになるのではないでしょうか。
尺八は、けたたましく大きな音を出さなくてもいいのではないでしょうか。
そして、歌口の深さが4mmもある鳴りを求めた尺八が現在、現実問題として出回っている時代、一尺八寸管ですら歌口を深くえぐったものが見られる現在、尺八の奏法の伝統は途絶えてしまうのではないかという危惧を持ちます。
もしも、歌口の深さが4mmもある尺八で、モイーズやランパル、J.ゴールウェイのような素晴らしい息のヴィブラートをかけられる演奏家が出れば(可能性はきわめて大きい)この奏法がはびこっていくかも知れません。
 
私は、そういう時代を見たくないと言う気持ちと、「それが時代の流れか」という諦めの気持ちの間をいったりきたりしています。
星空コンサートを明後日にひかえた今現在の気持ちとしては、8月5日が終われば早速、可能・不可能に限らずこの歌口の深い六寸管を、せめて深さ3mmにしてもらいに行く、と言うことです。
もしかすると、いままでの素晴らしい鳴りは消えさるかも知れません。
でも、それでもいいと覚悟しています。
この歌口の深さが4mmある新しい六寸管が、生まれたままの姿で人前で音を出すのは、明後日のコンサートが最初で最後になります。
何か、この新しい六寸管がかわいそうになってきます。しかし、生まれたままの状態で延べ3,40日私の息で音を出しつづけ、1度は人前で音を聞いてもらうのだから、まあ、それで我慢してもらおうと思っています。


【連絡】
 2006年8月の「尺八の相談日」は3月20日(日)です。
ご希望の方は往復ハガキでお申し込みください。
 〒590-0531 大阪府泉南市岡田2−190 貴志清一