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会報2008年7月号
尺八愛好家必読の本『古管尺八の楽器学』(紹介) 貴志清一

 志村哲氏の『古管尺八の楽器学』は「地無し延べ竹ごろ節有りの尺八」、いわゆる古管尺八の素晴らしさを示し世に問うた大変立派な著書です。
 今月はこの本を私の体験を通して紹介したいと思います。

 まず古管と現代管の定義をして話が始まります。そしてp29で古管の歴史的推移が述べられます。
「明治以降の日本の音楽界は、古管尺八にとっては不幸な方向へと展開することとなった。尺八を使用する音楽種目が多様化し拡散する過程において、もともと独奏を常とした尺八吹奏家が、他楽器との合奏へとその主要な演奏機会を移したことによって、楽器に求められる性能が変化したのである。そこで、こうした合奏用の楽曲を演奏しやすくするために、古管尺八の楽器形状が改造されることになったのである。」

 それでは改造前の尺八はどのようなものだったのかを、膨大な資料を元にして論述されていきます。
p60「本研究のための楽器資料は、古くは初世黒澤琴古(1710~1771)や古鏡(18世紀中頃か)の製作した約250年前のものを扱っている。
 楽器資料の所在に関しては、日本各地で、そして特に戦後は欧米でも確認されているが、予備調査から稲垣コレクションがその質、量ともに最大であることがあきらかである。また、稲垣コレクションの尺八は、製作以後ほとんど他者による改作(制作者の手を離れた後、他者が意図的に改造すること)がおこなわれていない。

 本研究は稲垣コレクション105本に木幡吹月コレクション34本を合わせた合計139本を研究資料として扱っている。さらに現代尺八の楽器資料も古管尺八の比較対象として取り上げている。」

 この稲垣コレクションと木幡コレクションの1本1本の詳細な表がp165に[楽器尺八資料一覧]として示されています。
 この表だけでもこの本の価値があるといえるほどの充実したものです。

 さてこの表を見ますと、意外と古管でもごろ節の無いのがあります。今から250年前の古鏡ですら何本かはごろ節の無い尺八です。きわめて素人臭い考え方かも知れませんが、江戸時代にもゴロ節有りの尺八の扱いにくさ・吹きにくさを避けるためにゴロ節無しにした尺八を製作したのではないでしょうか。
 ところで、私にとって「ゴロ節のある竹の響き」は自分の耳に聴かせるために必要なものです。暖かかく、何かを包み込んでくれるような良い響きをこのゴロ節が作るようです。
 話は飛躍しますが、アンデスのケーナの管尻は、それ自体が巨大なゴロ節みたいなもので、これがあのすすり泣くようなケーナの響きを作っているのではないでしょうか。

 さて、私の演奏したい曲は山口五郎師のような音楽的に洗練された琴古流本曲ですので、性能の良い地塗り尺八を前提としているある種の特殊技法は「地無し延べ竹ごろ節有りの尺八」では対応できかねます。このことが今の私の悩みなのです。すなわち、「地無し延べ竹ごろ節有りの尺八」では琴古流本曲のほんの一部の特殊な手だけですが、演奏できないということです。しかし、それはごくわずかな部分ですので、まあ我慢しなければなりませんね。

 さて、話は地塗りによる音色の変化に移っていきます。
p85の本文を引用しましょう。
「地無し尺八の製作者は、竹本来の特徴を損ねるものを尺八に付けたがらない。特に、管の内壁に粘土質の地を塗ることによって起こる音色の変化を嫌う。また、中継ぎを設けることによる竹の繊維の切断や、その部分の不整合を嫌う。おのずと、付加するものは最小限にとどめられる。
 これに対して地塗り尺八の製作者は、目的がはっきりしていれば、そのためにはあらゆる手段を講じてきた。しかし、その結果失われてしまったものを取り戻すためにはどうすべきかを、考える時期が来ているように思われる。」
 本当にバリバリ鳴る、馬鹿鳴りする尺八が幅を利かせている現在、そのブワオーと鳴る尺八は一つの行き方ですので否定はしませんが、それだけで本当にいいのかという疑問が起こります。音色重視の方向も大きな流れになっても良いのではないかと思います。その意味でも、志村氏の言う「失われてしまったものを取り戻すためにはどうすべきかを、考える時期が来ているように思われる」のは全く同感です。

 また、「地無し延べ竹ごろ節有りの尺八」に私がこだわる理由は“音色”の良さだけではありません。メリをおこなったときに、地無し管は素晴らしい表現をしてくれるのです。すなわち、音量の低下や音色の変化なく連続して楽にメリ込めるのです。メリから始まってもとの高さにもどるナヤシなどは地無しで吹くと気持ちのいいものです。
 このことをp111で志村氏は具体的なデータを示し、たいへん説得力のある結論を出しています。
「メリをおこなったときにも十分な音量が得られること、およびそれによりメリ音の微細な変化を演奏制御できることが指摘できる。」と。
 「古管尺八の楽器学」というきわめて得ることの多いこの本を読了して、さて今後自分自身はどうしていくかということを考えてみました。
 世の中一般、すべてどこかで妥協点を見つけることも大変重要なことなのですね。もう江戸時代には戻れませんし、私自身は“おそらく、地塗り管(現代管)を前提として工夫されてきた華麗な琴古流本曲”を吹きたいのです。

 そうしますと答えは一つ、「地無し延べ竹ごろ節有りの尺八」で現代管に近い性能の尺八を誰かに作ってもらうしかありません。でも、実際そういうことは可能なのでしょうか。
 可能性がないというわけではありません。もしかすると作ってくれるかも知れないとの期待があります。今は詳しくは言えませんが、たとえ妥協の産物でも「地無し延べ竹ごろ節有りの尺八」で性能のいい尺八が得られればまたHPにて報告させていただきます。

 それまでは、「ブッコ抜き・地無し延べ竹ごろ節有りの尺八(約2尺)」も吹き、現代管の一尺八寸、そして一尺六寸(七孔)も練習するという毎日を送っていきたいと思います。
 このように、私自身の取るべき道をはっきりさせてくれた「古管尺八の楽器学」という本、そしてその著者である 志村哲師には心よりお礼を言いたいと思います。

 尺八愛好家の皆様も是非この「古管尺八の楽器学」を一読されることをお勧めします。

 購入は 商品番号5103「古管尺八の楽器学」
○ 邦楽ジャーナル通販 商品コード5103、http://www.hogaku.com/

[お知らせ]

2008年8月3日(日) 尺八吹奏研究会
 尺八小演奏会・夏季講習会 
 尺八吹奏研究会では夏季に、小演奏会・講習会を開催いたします。
 特に、小演奏会では現代管と並んで「地無し延べ竹ごろ節有りの尺八」による「琴古流本曲“夕暮の曲”」等も演奏いたします。
詳しい要項はハガキにて「夏期講習会要項希望」と明記の上、下記宛にご投函ください。 
尺八吹奏研究会(代表 貴志清一)
590-0531 大阪府泉南市岡田2-190

○「尺八吹奏法U」ご注文の節は、 
@邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、http://www.hogaku.com/  一冊1,000円)
○「DVD版 尺八吹奏法U」難点が多々ありますが残部あります。もし参考としてご希望される方は、往復ハガキ往信面に「DVD版尺八吹奏法U・申込要項希望」返信面に住所、ご氏名を記入の上、〒590-0531大阪府泉南市岡田2-190 尺八吹奏研究会までご投函下さい。
折り返し申込要項をお送りいたします。