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インターネット会報2009年5月号

上原六四郎「俗楽旋律考」と尺八

貴志清一

 明治28年に発行されたこの「俗楽旋律考」は日本の音階を理論的に取り扱った、その頃にしては画期的な本です。
 岩波文庫に入っていましたが、現在は絶版になっていて入手困難と思われていますが、実際は「日本近代思想体系
(芸能)」に所収されていますので通常の図書館でも閲覧できるはずです。

 まず、著者の上原六四郎は有名な尺八吹きだったということが注目されます。上原は当時、東京音楽学校教授で、
音楽理論研究家であるとともに荒木古童門下の尺八の妙手でもありました。早くより荒木古童先生に師事して尺八を
學び、既に原如童につぐ吹き手として謳はれる人だったとのことです。 

さて本文ですが、この明治28年(1895年)という今から100年くらい前でも“尺八本曲の絶滅”が心配されていたのが
注目されます。(ページは日本近代思想体系に依る)
p.217
(本文)尺八本曲旋法の事

 尺八は普化宗とともに支那より伝来せしものにして、この楽器と共に本邦に伝わりし楽曲はわずかに三曲なりしが、
爾来これを古伝三曲と称し、本邦の人、この曲に倣ひて作曲を試み、ついに広く伝播せしという。この類の曲を本曲と
名付けて、方今存するもの三十六曲あり、この楽の名士琴古なる者の選定に係る。しかれども、近来これを学ぶ者甚だ
稀にして、漸く絶滅せんとするの姿なきにあらず。蓋しその奏法至難にしてその趣味深遠なれば、凡俗の意匠に適せざ
るに由るなり。

 上原六四郎が100年ほど前に「滅びそうだ」といった尺八本曲が未だ滅びていないことを考えると、本曲というのは一部
の人にとってはよほど魅力があり、その時代その時代で工夫されてきて現在に至ってるのですね。
海道道祖や、山口五郎といって個性的な尺八家がその工夫の例です。 

 次に、尺八本曲の音階について上原六四郎は、「尺八本曲は都節の音階に類する」と述べています。
 すなわち、典型的な地歌に見られる陰旋法(都節)です。
 上原六四郎は第一旋法と、第二旋法を分けていますが、これは単に主音をどこに取るかの違いで、同じ陰旋法です。

 実はそれが分かるというのは、今では小泉文夫が解明した日本の音階理論があるからです。いわゆるテトラコルドという
四度枠の理論です。 

ここで、第一旋法はレ(G)を出発点とした都節
第二旋法はロ(D)を出発点とした都節
ですから、旋法としては一つです。

レ調の都節音階を確認します。
(乙)レ ウ り ロ ツ レ(上行)
(甲)レ ツメリ ロ り ウ レ(下行)

これから分かることは明治時代、琴古流尺八本曲は通常の地歌と同じく、陰旋法(都節)で演奏していたと言うことです。
おそらく江戸時代に尺八は琴三味線と合わすことでその影響を受け、自ずと本曲も都節音階になっていったということです。
もちろん私のように琴古流を継承する者は、本曲を陰旋法(都節)で演奏しています。

 この上原六四郎の「俗楽旋律考」は、日本の陰旋法、陽旋法を言葉として書き記した点で価値があります。

 ただし、陽旋法になると重大な誤りを犯しているのですね。

 詳しくは小泉文夫の名著「日本伝統音楽の研究1」をみると分かります。
 すなわち、上原六四郎が陽旋法といっているものは、実は2種類あり、その2つを明確に分離していないということです。
 陽旋法は、正しくは「律の音階」と「民謡音階」に分けなければなりません。レを基準にした尺八の譜で書きますと、

 (律音階) レ チ  り ロ ツ中 レ
 (民謡音階)レ リメリ り ロ  ツ レ

 上原六四郎が混乱したのも無理からぬことでした。
 上記の律音階を“チ音”から始めますと 
 チ り ロ ツ中 レ チ となり、これは民謡音そのものです。

 ですから、混同したのですね。

 また、陰旋法(都節音階)は律音階の中間音が半音下がったものだということも小泉氏の研究を待たねばなりませんでした。
 小泉氏の研究成果である「テトラコルド(四度枠)」の理論によって日本の音階が明確化されました。

 これがはっきりしますと、以前説明した「七小町」の後歌のところが転調を繰り返し合計7つの調を使っていることも分かります。
 また、幕末の吉澤検校の「千鳥の曲」が律音階を陰音階に上手く混ぜて雅楽的な雰囲気をだすことに成功していることも分かります。
 更に、新日本音楽の宮城道雄が「春の海」で、冒頭から日本人にすっと入ってくる民謡音階を使い、それが従来の都節音階に移行し
ていることも分かります。

 このように、江戸時代から現代にいたるまでの数々の名曲をきちんと分析できるのもこの上原六四郎の「俗楽旋律考」が先鞭をつけた
お陰だといえます。


【ご案内1】
尺八吹奏研究会 第21回演奏会
地無し尺八による演奏会
 尺八吹奏研究会では下記のように、演奏会を開催いたします。
 ゴロ節を大きく残した地無し管の独特音色をお楽しみいただければ幸いです。

日時 2009年5月24日(日)pm.1:30開場 2:00 開演
☆出演  尺八:貴志清一 前嶋義  箏:菊苑馨
☆おもな曲目 琴古流本曲 「鹿の遠音」
       吉澤検校作曲「千鳥の曲」
       宮城道雄作曲「春の海」他
☆場所 豊中市立伝統芸能館
☆交通 阪急梅田より宝塚線「岡町」下車2分
○入場料:無料(整理券必要)
○申込方法
 下記の住所宛、往復ハガキに「21回希望」と明記の上、
 住所・氏名・電話番号をご記入の上、お申し込みください。 折り返し整理券(ご案内地図付き)を送付させていただきます。
主催 尺八吹奏研究会(代表 貴志清一)
〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190ー7


【ご案内2】
〈尺八教室〉

○講師 尺八吹奏研究会 貴志清一
(尺八歴31年、「尺八吹奏法U」著)
(池田静山師、後ち松村蓬盟師に師事)
○内容 琴古流本曲 新、現代曲、古曲、歌曲、初歩指導等
(琴古譜、都山譜両方可能、五線譜も可能)
1.月極稽古 (謝礼)
 月1回四千円、2回六千円、3回八千円
 ※入門料はありません。
2.稽古日
 平日、土曜、日曜(ご相談下さい。)
3.時間:概ね30分〜1時間まで
4.ワンポイント稽古
 遠方、その他により1回限りのお稽古も受け付けております。
 1回四千円、特に合理的な吹奏法習得にお役立てください。

○稽古体験
 入門する、しないに関わらず稽古内容がご自分に合っているかどうかを体験していただけます。稽古体験は1回で無料

○申込法
 入門、ワンポイント稽古、稽古体験ともご希望の節は、ご氏名・ご住所と、рワたはメールアドレスをお書きの上ハガキ
にてその旨ご一報ください。折り返しこちらからご連絡させていただきます。

〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190    貴志清一


【ご案内3】
「尺八吹奏法U」ご注文の節は、
邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、http://hj-how.com  (送料別途)