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インターネット会報2010年1月号
あけまして おめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。 貴志清一

「尺八理想の横ユリ・息付きビブラート」の理論・実践(その2) 貴志清一
(会報248号の続きです)

2. 息のビブラートは、横隔膜ビブラートではなく、声門下腔のビブラートである。それはフルートの名手のビブラートであり、その獲得はかなり難しい

 もう一度、復習しますとビブラートには次の2つがあります。
 ・息のビブラート
 ・横方向の首振りによるビブラート
 そして、息のビブラートには次の2つがあります。
・横隔膜によるビブラート
・声門下腔のビブラート

 このうち、横隔膜によるビブラートというのは息を支えている腹筋を息切れしている犬のように動かすことによって音を揺らします。
これは、あまりにも音の変化が大きすぎますので特殊な場合にしか使いません。
 それでは声門下腔のビブラートというのはどういうものでしょう。適切な先生について熱心に練習すれば、かなり高い水準まで上達可能なフルートの世界を参考にしましょう。
 体系化したすばらしい教本がたくさんあるフルートの世界でも、最近までビブラートに関してはいろんな説があり混沌としていました。それを科学的に解明し、ようやく「ビブラートはどこでかけるか」を明確にしたのが
『フルート奏者のヴィブラート 理論と方法』
(ヨッヘン・ゲルトナー著 邦訳シンフォニア発行)です。
 この本の結論は、「いままでビブラートは横隔膜でかけるということが言われてきましたが、じつは横隔膜はあまり働かず、サインカーブのようななめらかなビブラートは喉でかける」というものです。
 喉といっても、それは声門下腔を広げたり、狭めたりすることで喉の周りの筋肉の運動によって作るのです。
 ただし、この声門下腔ビブラートは尺八奏者によく見られる、山羊が鳴いているような聞くに堪えない「チリメンビブラート」では決してありません。
 この本では「シェブロトマン」(山羊の鳴き声)と表現しているものです。
山羊の鳴き声はほとんどの人ができると思います。すなわち、恥ずかしさを忘れて「メエ〜〜へ、へ、へ、へへへへへへへ」と叫べば、このチリメンビブラートの喉の動きがよく分かるでしょう。
 
 さて、山羊の鳴き声ではない、音楽に使える息のビブラートのよい例は上手なフルート奏者の演奏を聴けばよく分かります。
 たとえばジェイムズ・ゴールウェイのCDなどが参考になります。古いところではピエール・ランパルもよい例です。
 よい例は多いのですが、どうも上手にこの声門下腔ビブラートをかけられるフルート奏者は少ないですね。音楽大学でフルートを勉強しましたという人でも滑らかな、ひと吹きの春風のような気持ちの良いビブラートをかけられる奏者はあまりいません。おそらく皆やり方は分かっているのでしょうけれど難しいのですね。
 私が実際に聞いたジェイムズ・ゴールウェイのビブラートは当然滑らかな良いものでしたが、たとえば日本全国的に知名度の高い女性フルーティストの演奏会では首を傾げたくなるような演奏でした。もちろん取って付けたようなビブラートでした。(「あなた、素人ですか」と聞きたくなるような。)
 しかし、知名度は低くても高い音楽性と技術をもったフルーティストは私の身近にもいます。小さな演奏会でしたが、なめらかな心地よいビブラートで演奏されていました。
 ところで、最近の自称尺八プロの若い尺八奏者の中には、この息のビブラートだけしかできない人がでてきています。しかも上手なフルーティストのような滑らかではなく、はっきり言って「下手くそ」な荒い、犬が鳴いているような感じの息ビブラートです。おそらく腹筋をつかった「横隔膜ビブラート」でしているのでしょう。それはそれで、一つの時代の流れなのでしょうけれど、残念なことです。
 
尺八は「首振り三年コロ八年」という言葉から分かるように、古来、首の横ユリビブラートを中心にしています。この何とも言えない滑らかなユリ(ビブラート)を日本人は愛してきました。
 何を間違ったのか、尺八は禅味を大切にするから、ビブラートの無い真っ直ぐな音で吹かなければならないという短絡的な考えで演奏する奏者もかなり前から存在します。何も考えずに四六時中ユリを入れて騒々しく演奏することへの反発なのでしょうが、それは曲によりますね。私ももちろん、ノン・ビブラートの重要性は十分意識していますし、音楽的な表現として全くビブラートをかけない音も大切にしています。

 本題にもどります。尺八は「首振り三年コロ八年」ですから、ビブラートは首の横振りでかける、だから息のビブラートは要らない!のではありません。次章でのべる通り、実は首振りに息のビブラートを忍ばせる、もしくは息のビブラートを首振りによって磨きをかけるときわめて滑らかなビブラートが得られます。
 声門下腔の息ビブラートは一般的にかなり難しく、ほとんどの人が尖ったようなビブラートになってしまいます。歌う時も声門下腔・息ビブラートですので、人の心にしみいるような滑らかなビブラートをかけるのはやはり難しいものです。
 ご自分の周りを見渡してください。今まで一度も歌を歌ったことがない人はおそらくいないでしょう。義務教育では音楽の時間があり小学校の6年間いやというほど歌を歌って人かたもいるでしょう。もちろん中学校も音楽の時間があります。また、現今、これだけカラオケが流行っていますので、おそらく宴会で一度も歌を歌ったことがない人はいないでしょう。歌うのが好きな人は手作業中でも鼻歌を歌いますね。
 さて上手下手は別にして、歌に関してはすべての人が歌手と言えますが、実際にうっとりするような滑らかなビブラートで歌える人がご自分の周りにどれくらいいるでしょうか。
 おそらく、良いビブラートをかけられる人はきわめて少ないのではないでしょうか。と言うことは、この息ビブラート(声門下腔ビブラート)はたいへん難しいのです。
 まず、この「息のビブラートは難しいということ」を確認してください。
 この息ビブラートの難しさを分かって初めて「尺八のビブラートづくりに首振り(横)はきわめて有効である」ことを意識するのです。
 尺八奏者はしっかりした息に、(犬でも可能な?)首を横に少し振る動作を入れるだけで滑らかなビブラートが実現できるのです。
もちろん、この首の横ユリは長い訓練がいりますが、正しい訓練を毎日すれば獲得できるものなのです。
 そして、その横ユリに息ビブラートを乗せることで音色も良くなり、この世のものでないような音色も獲得できる可能性が開けるのです。言いかえますと、息ビブラートが少々尖っていても横ユリによって滑らかにできるのでです。
 この方法を見逃す手はありませんね。


 以上長々と述べてきましたが、その「息ビブラート」について説明します。
 毎日の練習方法は後で述べますので、ここでは原理だけ理解してください。

・尺八は持たずに「あ−」の声を長くのばし最後に声門を閉じて音を切ります。何回もします。
・この声門を軽く閉じる感じをつかめたら「あ−」の長さを短くし、声門(喉)閉鎖の緊張をだんだんゆるめてください。
 あ−−−−、あ−−−、あ−−、あ、あ、
・この「あ、あ、あ・・」の声をつなげましょう。すると「ああああああああ」となります。
・さらにだんだん無理をせずに速くしていき、軽快に揺れ、鋭さも角張ったところもない、「山羊の鳴き声」でもないビブラートを作るのです。
・尺八で乙の「り(琴古)」「ハ(都山)」をこの要領で吹いてみましょう。うまくいかないかも知れませんが、息のビブラートの感じはつかめると思います。

 文章だけ読みますと、「あっ、すぐにビブラートが修得できそうだ。これで歌も、尺八も名人級になれる!」と思うかも知れません。まあ、何十万人にひとりくらいは、瞬時にできるかも知れませんが、たいていの人は軽快に揺れるどころか、少し速い「あああああ」すらできないと思います。
 後で述べる、練習方法を使って毎日毎日繰り返し練習をすれば少しはできるようになると思います。
 ただし、上手くできなくても落胆する必要は全くありません。尺八では首の横ユリを入れますので、少々角張った息のビブラートでもいいのです。もちろん、軽快に揺れ、鋭さも角張ったところもないビブラートを修得できれば最高なのですが。
 さて、方法が分かったところで、この息ビブラート=声門下腔ビブラートをかけるときに、実際にどの筋肉を動かしているかを説明をして、深い理解に資したいと思います。
 なおこの章は『フルート奏者のビブラート』を参考にしていま
す。

【声門下腔のビブラート】
 まず、声門下腔の場所をレントゲン図で示します。(IT会報では省略:連載終了時に会報をまとめた冊子の作成を予定していますので、会員以外の方はその冊子をご覧いただければ幸いです)

 図を見てください。上から下へと喉頭室前室が狭まり咽頭室の下に声帯があります。この左右の声帯が近づき振動することによって声の元ができます。その声帯の襞の下が声門下腔です。ここから広がって気管になります。
 さて、この声門下腔を規則的に広げたり、狭めたりすることによって息の拍動をつくります。もしこの拍動が滑らかに快い波になれば歌にすばらしいビブラートをつけることができるのです。 おそらく、クラシック・ポピュラー・歌謡曲等ジャンルを問わず、歌手にとっては「喉」から手がでるほど欲しい技術です。
 この声門下腔の拍動を受け持つのが主に声帯よりやや下の輪状甲状筋です。解剖図を見てその場所を確認してください。
(ITでは図省略)
 主にここを上手に収縮・伸展することによって声門下腔を広げたり狭めたりすることによって息のビブラートを作り出します。もちろんこの動きはきわめて微妙ですので、他のいろいろな筋肉群もこの動きに関わっています。しかし息のビブラートにおいて声門下腔を変化させるのは、主として輪状甲状筋の働きによります。決して声帯自身を動かすわけではありません。ですから、喉を震わす=声帯を震わすと勘違いして、喉に余分な力を入れるのは間違いです。
 さて、輪状甲状筋を働かすのですが、「輪状甲状筋を動かすのだ」といくら気張ってみてもビブラートはできません。そうではなくて、「あ−−」の練習を通してこの筋肉を動かすことを覚えるのです。
 「尺八吹奏法U」では「フーフーフー」と表現しているのがこの息・声門下腔のビブラートなのです。




○「尺八吹奏法(運指編)」申込方法
(A4版39ページ、頒価1,000円送料無料)

 「尺八吹奏法U」を活用されている方々のご要望により「尺八吹奏法(運指編)」を作成させていただきました。
 特に、腱鞘炎にお悩みの方、速い運指が不得意な方等、是非お申し込みくださいますようご案内させていただきます。
(内容)
@尺八の持ち方、
A押し指の練習
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E「雨の水前寺」を吹く
Fコロの練習法

ハガキに「運指編( )冊希望」と記し、住所・氏名をお書きの上、下記宛までご投函ください。(送料は無料、一冊1,000円)
 ※事務処理の都合上、恐れ入りますが先の送金はご遠慮ください。
〒590-0531泉南市岡田2-190-7貴志清一 宛



【尺八・お稽古のご案内】
〈貴志清一尺八教室〉
○講師 尺八吹奏研究会 貴志清一
(尺八歴31年、「尺八吹奏法U」著)
(池田静山師、後ち松村蓬盟師に師事)
○内容 琴古流本曲 新、現代曲、古曲、歌曲、初歩指導等
(琴古譜、都山譜両方可能、五線譜も可能)
1.月極稽古 (謝礼)
 月1回四千円、2回六千円、3回八千円
 ※入門料はありません。
 ※講師はどこの社中にも属しておりませんので、免状等はお出しできません。この点、あしからずご了承ください。

2.稽古日
 平日、土曜、日曜(ご相談下さい。)
3.時間:概ね30分〜1時間まで
4.ワンポイント稽古
 遠方、その他により1回限りのお稽古も受け付けております。
 1回四千円、特に合理的な吹奏法習得にお役立てください。
○稽古体験
 入門する、しないに関わらず稽古内容がご自分に合っているかどうかを体験していただけます。稽古体験は1回で無料
○申込法
 入門、ワンポイント稽古、稽古体験ともご希望の節は、ご氏名・ご住所と、рワたはメールアドレスをお書きの上ハガキにてその旨ご一報ください。折り返しこちらからご連絡させていただきます。
〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190
               貴志清一



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