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インターネット会報2010年2月号
続き:「尺八理想の横ユリ・息付きビブラート」の理論・実践(その3)

3.尺八は独自の首振りによる横ユリのビブラートを持っている
  そして、この尺八独特の首の横ユリに息のビブラートを載せることにより容易に、きわめてなめらかなビブラートが獲得できるということ。これを高い音楽性と共に達成できたのは、私の知る範囲では、最盛期の故山口五郎師であること。

「首振り・横ユリのビブラート」
 尺八で滑らかなユリ・ビブラートをかけるときは必ず横ユリにします。縦ユリしかできない尺八奏者も多いのですが、その人は今からでも遅くありませんので、後で述べる練習法で横ユリを自分のものにしてください。
 横ユリは正に首(実は頭部)を左右に振ることによって音にビブラートをつけます。
 この動きは簡単です。真冬の寒いときに表に出た瞬間「寒ウウウウウウウウウ」と首を震わせます。この動きが横ユリです。
 また、犬の体を洗っているとき、こちらの迷惑も考えずにいきなり「ブルブルブルブルブル」と頭からはじめて体全体を震わせて水をはじき飛ばす動きです。そのときの犬の頭を見てください。あれも首の横ユリです。
 この横ユリかなり速い動作が可能です。尺八奏者は早く修得しましょう。縦ユリでは音の変化が大きすぎて、特殊な場合にしか使えません。ただし、不思議なことにこの縦ユリは、あまり意識しないでもできるのです。それで多くの尺八奏者はこれに頼るのでしょう。
   
 さて、いよいよ横ユリが滑らかにでき、息のビブラートもできたと想定します。
 首横ユリが滑らかに、そうですね、私は1秒間に5回弱でしょうか、真っ直ぐな息に横ユリをかければもうそれだけで音楽的に表現に十分対応できます。もちろん低音域ではほんの少しゆったりしたビブラートになりますし、高音域ではやや速い目のビブラートになります。
 はじめに述べたように、息だけで滑らかなうっとりするようなビブラートをかけるのは大変難しいですが、もしできる方がいらっしゃいましたら曲のある部分に使ってください。それはそれで大変よい音楽表現になると思います。
 さて、真っ直ぐな息に横ユリをかける方法は清澄な響きで私も曲の中では大いに使いますが、それ以外に山口五郎師のよく使われた何かを訴えるようなユリも修得して決して損ではないと思います。
 これは尺八奏者が10人いれば10人ともできるビブラートかといえば、そうではないのです。少しややこしい技術であることは確かです。但し、理屈がわかり適切な指導者の下で毎日少しずつ練習すれば獲得できるのではないかと思っています。
 さてこの、息の勢いの乗った、それでいて滑らかなビブラートは次のような方法であると考えられます。
「横ユリに、それをうち消すような息のビブラートを載せる」と言うものです。
 横ユリの拍動に息の拍動をそのまま重ねますときわめて荒いビブラートになって音楽表現とはかけ離れた機械的なものになってしまいます。
 そうではなくて、お互いにビブラートの山(息の量・音程共)をずらすのです。
 実際の演奏は複雑ですが、わかりやすくするために首横ユリと息の拍動(吐くどう)の波で表しましょう。
 次の図1を見てくだい(IT会報では図は省略)
 
これは首横ユリと息の拍動の山同士が一致していますから、合成された音はきわめて耳障りな荒いビブラートになってしまいます。
勿論尺八奏者が目指すビブラートではありません。
 次に図2を見てください。(IT会報では図は省略)

 確かに、私の述べたように「お互いにビブラートの山(息の量・音程共)をずら」していますね。しかし、合成されたビブラートは全くの直線ですので、ビブラートがかからないことになります。もちろん、実際は真っ直ぐな音ではなく、何か揺らいだ感じの音になります。
 次の図3を見ましょう(IT会報では図は省略)
 これは、息の拍動を横ユリよりも大きく(息の量・音程共)したものです。
 
 この合成されたビブラートは、きわめて滑らかなものです。しかも息に力を入れても横ユリで相殺するようにしていますのでビュウービュウー吹くことができます。
 中ホールくらいなら十分響き渡る音量もでます。しかもそのビブラートはきわめて滑らかなのです。
 山口五郎師が大阪の厚生年金会館大ホールで、マイクなしで琴古流本曲を朗々と吹かれた時、後ろの方の席で固唾をのんで聴いたのを昨日のことのように思い出されます。目をつむればほんの数メートルの距離のところで演奏されているような錯覚におちいったことを覚えています。
 クリストファー遙盟氏が「尺八オデッセイ」に書いてらっしゃる山口先生の思い出は、決して誇張でも何でもありません。そのことは実際の演奏を何回か聴いた私が保証します。
 山口五郎師のような優れた奏者が息を鍛錬すれば、大ホールのような邦楽向きではない会場でも朗々と音を響かすことができる、そういう風なビブラートがこの
「お互いにビブラートの山(息の量・音程共)をずら」したものなのです。
 これに対する言葉はまだありませんので、とりあえず仮に「横ユリ・息反対ビブラート」と名づけます。私の文を読んだ後生の優れた尺八奏者たちに、もっといい名前を考えてもらうことにしましょう。
 勿論この「横ユリ・息反対ビブラート」は横ユリの振幅を大きくしても可能です。ただし、実際の演奏では息のビブラートを優勢にしたものとはかなり違います。

さて、これらをうまく使えば、いわゆる、自由自在にビブラートを演奏できることになります。さらに言えば幅広い演奏表現が可能になると言うことです。
 実際の練習方法は後で述べますが、ある一音を吹くにしても
・ノンビブラート(真っ直ぐな音)
・首横ユリのみ
・(軽い息だけによるビブラート)
・首横ユリ2回に息の拍動1回のビブラート(尺八吹奏法U)
・息の拍動の優勢な「横ユリ・息反対ビブラート」
・首横ユリの優勢な「横ユリ・息反対ビブラート」
それに加えて
・だんだん音を大きくする
・だんだん音を小さくして虚空に消える      
 以上が考えられます。
しかも、その音自体に
・芯のある音
・柔らかい音
・硬い音
・よく響く音
・くすんだ音
等があるはずです。
 そして、そのすべての音、表現ができたとします。さて、それではその技術を駆使して音楽表現ができるか?
 こたえは「それだけでは、できない!」となります。
何よりも、自分が「ここはこんな風に演奏したい」という強い強い意志がいるのです。それがなければビブラートにしても良い音にしても、宝の持ち腐れです。
 本当は、そこが難しいのでしょう。私事ですが、いろいろ尺八の理論・技法のことを書いていますが、「ここはどうしてもこんな風に吹きたい」という強い強い意志があるのかということをいつも反省します。そして、だいたいはそういう強い意志が希薄なときが多いので、できるだけ良い音楽を聴いたり、見聞を広めたり、本を読んだり、絵画を鑑賞したりするように心がけています。
 そこが尺八演奏者としての私の限界なのでしょうけれど、音楽への強い意志をもった奏者が、この自由自在なビブラートを修得されて広く一般の方にも尺八の良さを広めていって欲しいと思います。
 話が少し脇道へ行ってしまいました。戻しましょう。
 この「横ユリ・息反対ビブラート」の技法は、ビブラート(ユリ)をほとんど使わない、または、使ってはいけない流派の方にも有効なのです。
 息のビブラートを練習すればわかるのですが、この息のビブラートは息の勢い(圧力)を修得するのに大変効果があるのです。
 息をフーフー出すことで、喉を閉めないで理想的な声帯の隙間を体得できるのです。尺八初心者は息が続きませんね。これは余分な息を使いすぎるのですが、原因はあまりに開きすぎた声門(声帯の開き)にあります。
 師匠は「息を無駄遣いするな」と言いますが、言われた弟子は、それではと、息を少しずつ出して弱々しい音にします。今度は、「音が小さい!もっとしっかり吹け」と言われます。そんなことを百回も繰り返していれば尺八が嫌になりますね。
 なぜ息を無駄づかいしているのか。それを師匠は理解して、弟子の進歩にあわせて指導すべきでしょう。
 この息のビブラートをしていると、不思議ですが、自然に声門の開きが理想に近づきます。すなわち、開きすぎないようになるのです。息のビブラートだけ練習すると、それは尖ったビブラートになるので、練習意欲をそがれますが、「横ユリ・息反対ビブラート」では、滑らかな音になるので、自ずと息のビブラートも一緒に練習することになります。
 そうすれば、理想的な声門の開きがえられますので、ビブラートなしで演奏するときも圧力のかかった良い息で吹けます。
 ノンビブラート(真っ直ぐな音)で15秒、20秒と安定して吹くことができるのです。
 ですから、ビブラートを使わない流派の方にもこの「横ユリ・息反対ビブラート」は有効だと思います。

 次の章では、ビブラートによって、歌口のエッジに当たる息を理想的なものにすることができることを述べます。
 あわせて「尺八吹奏法U」の息1回に首横ユリ2回のビブラートの意味も考えたいと思います。

※なお、IT会報では図が省略されていますが、この連載が終了する時点で「尺八奏者のビブラート(仮称)」を作成する予定です。その中には、省略した図も、実践編の楽譜も掲載いたしますので、ご興味のある方は、どうかお申し込みください。(尺八吹奏研究会 事務局)




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(A4版39ページ、頒価1,000円送料無料)

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〒590-0531泉南市岡田2-190-7貴志清一 宛



【尺八・お稽古のご案内】
〈貴志清一尺八教室〉
○講師 尺八吹奏研究会 貴志清一
(尺八歴31年、「尺八吹奏法U」著)
(池田静山師、後ち松村蓬盟師に師事)
○内容 琴古流本曲 新、現代曲、古曲、歌曲、初歩指導等
(琴古譜、都山譜両方可能、五線譜も可能)
1.月極稽古 (謝礼)
 月1回四千円、2回六千円、3回八千円
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〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190
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