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インターネット会報2010年6月号
反論:「@なぜ息ビブラート練習の危険性を述べないのか?」
   「A横ユリと息拍動のうち消すビブラートは理想ではなく、“一つの方法”と書くべきだ」
                    (ペンネーム:竹尾 守)

 お便りいたします。貴会:尺八吹奏研究会の尺八理論は、いつも参考にさせてもらってます。
 さて、今回の尺八ビブラートの記事についてはいささか首をひねっています。小生も関西在住で貴志氏の演奏を聴いたことがありますので、氏自身は気づいていないビブラート論の不備を発見したわけです。それは小生の弟子の一人が貴殿のビブラートの文章を読んで“大スランプ”になり、その克服のために小生も苦労したことによります。
 あらかじめ申し上げておりますが、そしてこれは自慢でも何でもないのですが、貴志氏の6回に渉るビブラートシリーズを私は理解し、再現できます。ですから私の弟子の陥った原因も分かった次第です。
 この文章は是非全国のみなさんに紹介してもらいたく思います。なぜなら、尺八吹奏研究会のHPを見ている人の中には間違ったことをしていても指導してもらえない愛好家もおるでしょう。たとえば独学の人とか。
 小生の文をそのままでなくても、要約し、また貴志氏ご自身の回答もお願いしたく思います。このままの文章では尺八愛好家が何十人、何百人とスランプに陥る危険性があるのであえて書くわけです。
 
@ なぜ息ビブラート練習の危険性を述べないのか?」について
まず私の弟子の話からはじめます。
(実際は関西弁の会話ですが、分かり易いように標準語的な文に変えています。)

最近私の弟子の一人が「先生、近頃口元がふわふわしてしっかりした音がでなくなりスランプです。自分でも原因がわかりません。本当にこまっています。」と悩みをうち明けてきました。
「最近例年になく寒いですから、唇も言うことをきかないのでしょう。」と言いますと、
「いいえ、4月になっても唇の周りの筋肉を冷やしてはいけないので風のある日なんかはマスクをしています」とのこと。
「忙しくて、練習時間が少ないと竹は鳴りにくくなりますよ」と言いますと、
「先生もお読みの尺八吹奏研究会のHPでビブラートの特集をやっていまして、ぜひ修得しようと思い練習時間を増やしています。」とのこと。
 永らく尺八を指導してきた直感で「もしや?」と思い聞いてみました。
「確かそのHPの5月号は息のビブラートの実践法が載ってますね。それでどんな風に練習しています?」
「はい、書いているとおり声で
“ハッハッハッ、ハハハハハハホホホホホッ、ホオオオオオオオオオオオ〜〜〜〜」
と歌っています。それをいろんな高さの音で歌っています。」
私が、
「この声の息ビブラートは良い練習になりますね。ずっと続けてください。」と言ったとき、すこし顎の動作が気になりましたので、
私は、
「実際に吹いてみてください。乙のハ(琴古り)でいいでしょう」と言いますと彼は大きな揺れでホーオーオーオオオオオオオオオオ〜と吹きました。
この揺れはもう森進一か「長崎は今日も雨だった」の前川清のようなオオオオオオオオオオ〜を尺八で再現したようなものでした。
彼が言うには、
「メトロノームに合わせて練習しています。もう今では四分音符152でも楽々と息の拍動を作れます、先生」
 残念ながら私の弟子は“顎を動かして”ビブラートをかけていたのです。
顎を動かせば、もうそれは息の拍動なしでも息のビブラートのような音がします。私は原因が分かったのですぐ、
「それがスランプの原因です。」と言いました。
 そこからはいつもの師匠根性、すなわち自分の持論を滔々と展開するということになりました。
「確かに顎を小刻みに動かせば息のビブラートのようになります。実際にほとんどの演歌歌手はこれを使っています。歌謡曲の世界でヴォイストレーニング中、ビブラートはなんと所定の音とその半音下の音を行き来させてビブラートをかけさせているところもあります。半音音程を上下させると自然と顎を動かすようになります。
 尺八は演歌ではありませんので、原則的に顎を使ってはいけないのです。」
弟子は、「でも、顎を使うと、どうして尺八が吹きにくくなるのですか?」
との質問を投げかけましたので、
「確かに、いい音を出す感じを体得している□□さんのことですから、おそらく下唇で上唇をこするような感じで吹くということをしていますね。
貴志さんのHP162の“下唇の活用”にもありました。
 しかし、□□さんの場合、無謀にも下顎を上下させていますね。おそらくこの練習をし始めた頃は『おれは、なんとすごいいい音がだせるのだろう』と思ったのではないですか。」
「はい、その通りです。下顎を動かすのも楽しいし癖になるくらいで、しかも下唇の活用をしていい音も出る、おかげで練習時間が長くなりました。」
「ところが、1週間2週間とそればかりしているうちに音が出なくなったのでしょう。
 人間の顎というのはそれはそれはすごい力を持っているものです。
 むかし子供の頃テレビ番組で、車につないだロープを顎で噛んで引っ張ると言う映像がありましたが、それだけ力がつよいのですよ。
その顎でもって下唇を上唇にこすりつける。唇は鉄でできているわけではないのです。極めてやわらかいもので、□□さんは自分の唇を常時マッサージしているようなものです。
 メトロノームで152の速さと言いましたね。するとだいたい1秒間に5回唇をマッサージする。1分間で5×60=300回、まあ30分これをいろんな音で練習するので300×30=9000回
 一日にこんなに微妙な、こんなに繊細な唇という組織を約1万回もマッサージすれば、まあ弾力も何も無くなります。それも4,5日はいままで獲得した余力でがんばれますが、まあ、半月、1ヶ月もすると唇が言うことをきかなくなりますね。それが、□□さんのスランプの原因ではないでしょうか。」
 その日はまだ納得しかねるようで、□□さんはあまりいい顔をしては帰りませんでした。
 それから4,5日たって電話があり、稽古日を変更して欲しいのかなとおもって受話器をとりますと□□さん曰く、
「先日のお稽古、ありがとうございました。あれからいっさい顎のビブラートはやめました。また、少し恐いので息のビブラート練習もしていません。初心に返って真っ直ぐな音のロングトーンを中心に基礎練習をしています。真っ直ぐなロングトーンを十分した後、いつも教えてもらってます横ユリのビブラートを練習しています。すると、だんだん調子のいいときの唇の感覚が戻ってきました。まだ3,4割程度ですが、もうスランプではありません。1ヶ月もすれば元に戻れそうです。ありがとうございました。」
 以上が私の□□さんの話です。
 確か、息ビブラートについては、“顎を動かす”危険性には触れられていませんでしたね。ですから、必ず「顎ビブラートの危険性を」について追記して欲しくお願いします。

A「横ユリと息拍動のうち消すビブラートは“理想”ではなく、“一つの方法”と書くべきだ」について
 今回の会報のシリーズは、結局「横ユリと息の拍動がうち消し合うビブラート」についてのものですね。
 しかし、どうでしょう。たしかに山口五郎師はそのような感じのビブラートをかけていたと思います。ただそれは“好みの問題”であって、尺八にとって必ずしも“理想”ではないのとちがいますか。多くの古典本曲を吹奏される奏者はビブラートのかかっていない音も随分大切にします。
 また、同じ琴古流でも青木鈴慕師はむしろ音を真っ直ぐに伸ばしますね。
ですから今回のように、一つの方法である「横ユリと息の拍動がうち消し合うビブラート」を“理想”と言ってしまえば、尺八の初心者の人たちは混乱すると思います。特に古典本曲を習い始めている人が「うちの師匠は音を真っ直ぐ延ばせというが、実は“理想のビブラート”ができないから、そう言ってるのだ」と安直に考えたら、それこそ大変です。
 また、貴志氏ご自身もあまりこの“打ち消し合うビブラート”は使わないのではないでしょうか。実際に聞いた私の感じでは、音を真っ直ぐに少し伸ばしながら横ユリを微妙に入れていく比較的素直な演奏をされますね。それはそれでより本曲の目指す所に近いと思っております。
 その端正な演奏の当の本人が、比較的拍動のきつい“打ち消し合うビブラート”を“理想”と言うのは矛盾ではないでしょうか。
 それはご自身もHPの174号(2010年2月)に
ある一音を吹くにしても
・ノンビブラート(真っ直ぐな音)・首横ユリのみ・
等もきわめて大切だと書いていますね。
 結論的に言えば、この「尺八理想の横ユリ・息付きビブラート」の表現を、より誤解のない「一つの方法としての横ユリと息付きビブラート」として欲しいと希望します。

 以上2点につきまして、貴志氏の演奏を知る人間として苦言を呈しました。是非、いろんな尺八愛好家の人々を視野に入れていただき、ご意見をお聞かせください。お願いします。(匿名希望)



(事務局より)
 たいへん貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。
 きわめて的を得た内容ですので、しばらく検討させていただきたく思います。
 尺八のビブラート連載を今月は中止いたしまして、まずはペンネーム竹尾さんのご意見をじっくりお読みください。また、事務局へもご意見をお寄せください。
 会員以外の方でも、是非ご意見をお寄せください。よろしくお願いいたします。
  (〒590-0531大阪府泉南市岡田2-190-7 貴志清一迄)
 また、作成中の研究冊子「尺八奏者のビブラート」は、おそらく記述や内容に若干の変更が加えられると思いますので、製本は遅れます。よろしくご了承ください。 


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