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インターネット会報2011年3月号


「はじめてのワンポイント出稽古」
                                                      貴志清一
 名古屋にお住まいの本会会員の都山流の方から以下のようなお手紙を頂きました。

 「先生の尺八吹奏法Uを読み、音を出す秘訣について、唇の内側の柔らかい粘膜室で吹くコツがだんだん理解できています。
時々大きく元気な音が鳴り楽しみな今日この頃です。
 ただ、口笛を毎日、注意深く吹いていると感覚がおかしくなります。
口笛を大きく鳴そうとすると、下歯の息の流れとほっぺをへこまさなくては鳴りません。尺八を吹くときはほっぺを膨らませて息を吐き、音をコントロールしています。
ほっぺは膨らませたほうがいいかどうか、複式呼吸との兼ね合いもあると思いますが伝授ください。勝手ながらよろしくお願いします。」
      
 この文面をみて、「この人はかなり尺八を吹けるにも関わらず、強い向上心をお持ちだな」ということを直感しました。
 ただ、熱心なあまり、吹奏法について袋小路のようなところに突き進んでいるように感じましたので以下のようにお返事させていただきました。

 「前略 
 さて、ご質問につきまして回答させて頂きます。尺八についての疑問や質問があること自体、ご自分の技術が向上している時ですので、自信を持って練習してください。
 尺八吹奏法Uの記事を読了後、口笛を毎日注意深く吹いているのはいいことです。しかし、過ぎたるは及ばざるがごとし、だと思います。
 口笛は大きく鳴らす必要はありません。口笛演奏が上手くなるためにするのではなく、尺八が上手くなるために口笛を吹いて、「唇の赤いところに力を入れない感覚を獲得する」のが目的です。
 手段が目的になってしまっているのではないでしょうか。
尺八を吹くときはほっぺを膨らませて息を吐き、音をコントロールしていらっしゃるとのことですが、「ほっぺは膨らませたほうがいいかどうか」は個人によります。ただ、きちんとした奏法ができるまでは、ほっぺはあまり膨らまさないほうが、アンブシュアの形成にはいいと思います。結果として私などは、ほおが少し膨らみます。しかしそれは結果としてであって、膨らまそうとしてそうしているわけではありません。
 頬の膨らみと腹式呼吸との兼ね合いは、まったく関係ないです。腹式呼吸は別に考えてしっかりと確実にしてください。
 ところで、尺八は独学でしょうか?独学の場合と、師匠におつきの場合では文章の指導も違ってきますので、お教え下さい。
 又、本会の会員さんですし、大阪から名古屋はそう遠くはないですので、万一吹き方の悩みで目の前が真っ暗になられた場合は、日程が合えば交通費とワンポイント・レッスン費にて出稽古させていただくことも可能ですので、その節はまたご連絡下さい。勿論、拙宅にお越し下さっても可能です。
 今回のご質問は基本的なことですので、もう一度原点から「素吹き(ロングトーンの練習)」を始めて下さい。
 ご上達を期待しております。」

 長々と引用させていただきましたが、私の尺八吹奏法Uの書き方が上手くないのでしょうか、それとも尺八吹奏自体が難しいのでしょうか。
 それはさておき、すぐにお返事がきて、
「来ていただけるのなら、大変ありがたいので、宜しくお願いいたします」ということで、私が名古屋へいくことになりました。月に1日ぐらいですと尺八普及の為なら時間をとれますし、日帰りが可能ですのでお引き受けした次第です。
 1年に一回は千葉から泊まりがけでお越しになられる方。広島や福岡、神奈川から日帰りでお見えになられた方。数年前ですが北海道から飛行機で日帰りでお越し頂いた方。たまには同じ大阪府からもお見えになられます。
 そんな折りには、理想的な吹き方を体得したいという強い強い気持ちの方がこの世の中にはいるのだなあと、いつも感心します。因みに私自身、尺八が長い間思うように吹けなかったので「理想的な吹き方」への強い気持ちは強い方だと思っています。
 吹き方ではありませんが、竹の音色について、3年ほど前は地無し管を求めて東京まで行き何の成果も得られず帰ってきたことは既に会報158号(2008年10月号)で述べた通りです。

 さて、愛知県のK氏に再度、交通費のご負担はかなり大きいことの確認をさせていただき2月1日に自宅を8時過ぎに出ました。
 さすがに大阪の和歌山に近いところから名古屋までは5時間近くかかります。ご自宅におじゃましたのが1時ごろでした。
 到着し簡単な挨拶をして、さっそくご用意されていました質問事項の一つ一つについて回答を始めました。
 
○腹式呼吸
 まずKさんは20年前までは師匠について習っていらっしゃったこと。師がお亡くなりになったので、それ以降は独学でやってきたことが分かりました。音はしっかり鳴りますし、持って生まれたいい音の出やすい唇でした。腹式呼吸から質問すること自体、かなり上手な方だと分かりました。 きちんと吹けない愛好家ほど技術的なことを気にするものですから。
 体を倒して息を入れてもらいますと、きちんと腹の底まで空気が入ります。Kさんは、
「体を倒したときは、息が腹の底まで入るのですが、体を起こした状態ではそのような感覚が得られないのです」とのこと。
 体を倒しても、たいていの人はしっかり息が入らないのですが、Kさんはこのことをクリヤーしています。そこで、私自身が倒した状態、まっすぐ立った状態での脇腹を触ったもらい実演しました。そして、
「体を倒してきれいに息が入っていますので、その状態からたった5cm上体を起こします。ほんの少し息が入りにくくなりますね。そうしたら、また元の上体にしましょう。自分の体を信じて、ほんの少しずつ慣れていってください。けっして慌てないようにしてください。」とアドバイスしました。Kさんは「そうですね、慌ててはいけないのですね」と納得された様子でした。
 このことは私自身の勉強になりました。尺八吹奏法Uの説明は完璧ではないということを実感させられました。自分で割合苦労なくできたことは、なかなか丁寧には書けないのだなあと反省いたしました。Kさんにはこちらから講師料を渡したいほどです。
 
○口腔前庭
 「“上唇の赤いところの裏に空気をためるような気持ちで吹く”のはこんな感じで良いのでしょうか」とのご質問です。
 吹奏時の唇の感じを見ますと、さすがに20年以上吹いていらっしゃるだけあって、そして生得的に良い唇に恵まれていらっしゃるので、
「その感じでいいのです」とお答えしました。
 吹いている時にほんの少し「喉の鳴る」悪い癖がでましたので、注意させていただきました。これは「腹式呼吸をきちんとし、あわせて、喉が鳴ってきたら“吹くのを止める”ことで解消できる」ことを申し上げました。

 その他、吹いているときの声帯の様子や、私自身の尺八歴等々、気が付けばもう4時になっていました。
 Kさんは、オーディオマニアで、それも半端な機械ではありませんでした。せっかくということでそのオーディオセットで臨場感そのものの音を聴かせていただき、よい経験をさせていただきました。
 なにぶん遠いところですので、4時半ごろには最寄りの駅から名古屋、そして大阪に帰って参りました。
 これが、はじめてのワンポイント出稽古の記録です。これによりましてKさんの尺八がより一層向上されることを期待しています。また、この日は私自身にとっても良い勉強になりました。
 充実した一日を過ごせたことをKさんに感謝したいと思います。


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〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190-7 貴志清一