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インターネット会報2011年4月号

 この度の東北地方太平洋沖地震で被災されました地域のみなさま、関係のみなさまに心よりお見舞いを申し上げます。また、一刻も早く福島原子力発電所の事故が終息しますよう祈っております。


        北原家所蔵・虚無僧古文書を読む
                                             貴志清一
 私の住む大阪府泉南市の図書館で「楽器の事典 尺八」(東京音楽社)を見つけ興味深く、一気に最後まで読みました。もう20年ほど前の出版ですので現在はamazonその他のような古本市場で入手可能です。
 この本は京都の製管工房の北原精華堂さんを中心に、尺八を作るのはいかに大変か、そして尺八にまつわる歴史にまで分かり易い説明がされています。
 
 本文中に、北原家所蔵・虚無僧関係古文書(1枚)P135の解説がありました。図版にはその古文書のはっきりした写真も掲載されています。その中で、「この古文書が本物か、贋物かはっきりしない」と言うたいへん良心的な記述があります。
 その文書の真贋については、出版から20年ほど経っていますから既に複数の方より所蔵者の北原さんへのご教示があったものと思ったのですが、参考までに私の私見を書いてお送りした次第です。
 北原さんから早速お返事がありまして、この本の出版以来、まだ誰もそれについてのご意見を聞かせていただいていない、ということでした。
 明らかに、この古文書は本物だと確信していますし、また江戸時代の京都明暗寺関係の虚無僧の歴史の基礎資料だと思いますので、私の狭い知識の範囲ですが、北原さんに送った文章を紹介させていただきます。
なにぶん歴史の専門家ではありませんので、思い違い、間違い等、ご教示くだされば幸いです。

 まず、原文の読み下し文、現代語訳を見てみましょう。
会員の方は写真と原文も参考にしてください。(ITでは省略)


一 御領分中、当宗門取締の儀、今般拙僧へ (改行、以下同じ)
 仰せつけられ候間、以来虚無僧の義何事に限らず
 申し出られ候筋これ有り候はば、拙僧方迄申し越さるべく候事

(訳文)大坂町奉行所の支配下の領地で、普化宗の虚無僧取締のことを、今回私(麟角)が仰せつけられたので、今後は虚無僧についての事柄について申し出たいことがあったら、私まで申してきなさい。

一 虚無僧姿の者 不法申し掛け候共、合力・賄等
 これ有る時は都て宗門の(障)に相成り候間、右の趣を以て
 断り申し聞かさるべく候、その上承知致さず不法申し募り候はば、
 差し留め置き、此の方へ申し越さるべく候事

(訳文)虚無僧の格好をしているものが、不当なことを言ってきて、お布施を出せだとか、飲食させろなどと強要するような事があれば、それは普化宗にとっての障害になるので、言って聞かせ、断るようにしなさい。それでもまだ文句を言うようならば、その場にその虚無僧を留めて取締所の私の所へ連絡するようにしなさい

一 虚無僧姿にて争論に及び自然、疵人等 これ有り
 候はば、猶予無く此の方へ申し越さるべく候 始末承り糺し、縦令
 助命危かり候共、宗門御役所にて相済すべく
 筋、または大坂 御奉行所へ御届け申さず候て(は)
 相成り難き次第、都て当宗門に拘わり候儀は、此の方より
 指図に及ぶべく候こと

(訳文)虚無僧の格好をしているもの、または虚無僧が言い合いになり、それが高じて刃傷沙汰になったときは、一刻も早く取締所の私の所へ連絡しなさい。事の顛末を聞き糺します。例え、疵が深くてもう助からないほどの瀕死の状態でも、これがa.京都の明暗寺で処理すべき事件か、b.大坂奉行所へ届けなければ済まないような事件かは、あなた方村役人が勝手に判断しないで、普化宗に関することは全て、取締所の私が指示します。

 右の趣 今般、宗門御役所へ御届けの上
 印書指し入れ候条、その旨 相心得らるべく候事
御領分中
  虚無僧取締所
     麟角(在印)             
 天保十三年壬寅(1842年)
四月 日
北野村
 役人中

 以上が原文の読み下し文と訳文です。
 これについての「楽器の事典尺八」の説明文について、わたくしの私見と理由を述べます。

(p135の下から7行目)
「この北原家所蔵の古文書が、はたして本物か、贋者か」
(私見)
・おそらく、本物だと思います。
(理由)
・写真で見る印はどうも実際の印判のようですので、この印判をわざわざ一枚の偽書を作るために作ったとは考えられない。
(印判の字ははっきりと麟角と読める)
・文中に大阪奉行所がでてるくが、北野村は大阪府立北野高校が所在する淀川べりの村で、ここは大阪三郷で大阪奉行所の管轄(御領分中)だと思います。
 文中の固有名詞が一致しますので、後世の人間が面白がってつくった古文書ではなさそうです。
 ※参考『大阪市の歴史』創元社・大阪市史編纂所編p170図「天保期の大阪三郷」

(p135の下から6行目本文)
「麟角とは何者で、誰が彼に命じたのか、誰宛の書面か」
(私見)
 麟角は本文にあるとおり、虚無僧取り締まり所の取締役でしょう。
この取締所は、関西の虚無僧本山の京都明暗寺の出先機関だと思われます。
 彼が北野村の村役人(庄屋さんや年寄等)へ、この文書の内容を知らせたのでしょう。

(p135の最後の行)
「天保12〜13年頃に、尺八に深く関わる事件があったのかも知れません」
(私見)
・この古文書だけでは決められませんが、刃傷沙汰があった可能性は有ります。
 そのことを考えるためには、虚無僧の留場(とめば)の理解が必要です。
 ご存じかもしれませんが、江戸時代、虚無僧寺(ここでは京都明暗寺)は経済的基盤である檀家を持ちませんでした。しかし、生身の人間ですから生きていかなければなりません。そのために尺八を吹いて托鉢をするのですが、乞食と同じことをしてもなかなか十分な収入は得られません。
 それで、市井の人間にも尺八を教えその教授料と免状代(本則)で現金収入を得ますが、それもたいしたことはないでしょう。
 勢い托鉢先で暴れ回ります。普通の悪者だと藩や代官、ここでは町奉行が取り押さえたりするのですが、相手は寺社奉行の管轄の虚無僧です。筋から言えば町奉行は逮捕権がないようなものです。
 村では困り果てますが、そこで虚無僧は「暴れ回ってほしくなかったら、一年毎にいくらかのお金を払ったら、虚無僧の托鉢を留めてやる。お前の村を托鉢を「留めた場」所にしてやる」と提案します。
 村では、虚無僧によって怪我人がでたり嫌がらせをされたりするくらいならお金で済まそう、となってここに留場制ができます。1700年代後半からでしょうか。
 ところが、虚無僧は天蓋をかぶっていますから、本物か偽物か分からないですから、勢い、不法虚無僧が跋扈します。もともと彼らは気が荒いので、自然と刃傷沙汰になったことも多かったのでしょう。

 もう一度この古文書の真贋を考えてみますと、これだけの微妙な、固有名詞の入った文書を後世のなんら利害関係のない人間が物好きで偽作するとは考えられません。勿論当時、物好きでこんな文書を作って見つかれば勿論犯罪ですし、まあ明暗寺の虚無僧達に袋叩きに遭うでしょう。
 従いまして、私は、この文書は典型的な、虚無僧が横暴になってきた幕末の本物の古文書だと思います。
 
 以上ですが、確実を期するために、現物を拝見させていただく心づもりだったのですが、残念ながら現在行方不明とのことです。
 従いまして、大きな写真版として「楽器の事典尺八」に掲載されたことは大変よかったのだと思います。


【演奏会のご案内】
尺八吹奏研究会 第27回演奏会
古典本曲〜三曲合奏〜大正琴〜演奏会

 尺八吹奏研究会では下記のように、演奏会を開催いたします。
 何とぞご来場いただき、ご指導をいただければ幸いです。
日時 2011年5月29日(日)
   pm.6:30開場 7:00 開演(8:30終演予定)
☆出演  尺八  貴志清一 杉本昇  大正琴 中川恒彦
三絃 村田滋      箏 菊苑馨            
☆おもな曲目 
 ○尺八古典本曲
  「手向」「雲井獅子」「鶴の巣籠」
 ○合奏
  「六段の調」「末の契」「惜別の舞」
 ○楽器による歌謡
「涙そうそう」「古城」他

☆場所 大阪府豊中市立伝統芸能館
☆交通 阪急梅田より宝塚線「岡町」下車2分
○入場料:無料(整理券必要)

○入場整理券申込方法
 出演者・関係者に直接お申し出いただくか、または、
 下記の住所宛、往復ハガキに「27回演奏会希望」と明記の上、
 住所・氏名・電話番号をご記入の上、お申し込みください。 折り返し整理券(ご案内地図付き)を送付させていただきます。
主催 尺八吹奏研究会(代表 貴志清一)
〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190ー7


【ご案内】
「尺八吹奏法U」ご注文の節は、 
邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、http://hj-how.com
(送料別途)

「尺八吹奏法(運指編)」(1,000円)のご注文はハガキにて下記へお申し込みください。
〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190-7 貴志清一