インターネット会報2011年5月号
○5月29日尺八吹奏研究会・演奏会が近づきました(文末)
(論説)藤舎推峰著「笛ひとすじ」を読んで 大石博康
尺八の稽古に行き詰まったとき、私は表題の本を読み返します。
この本は、義母が著者である藤舎推峰師の横笛演奏を聴いた折りに購入したもので、「尺八修行の参考になるかしら?」と渡されたものです。横笛も尺八も日本の笛であることに相違なく、修行や後進への指導方法・吹奏への心構え等に共感させられる点が多くありました。
私がお稽古に通っていた折りに師から教わったこと、同門の先輩や友人からの尺八談義中にも共通することがいくつもあります。
そのようなわけで尺八を愛好するみなさまへこの本のご案内をし、尺八吹奏研鑽の一助になればと思い、ペンを取りました。
なお、「」内が著作の本文の引用です。その下に私の感想、考えを記述しました。
「笛を習う人に
私(藤舎推峰)がまず初歩の人に教えるのは、一に力を入れるな、二に忍耐が必要である、三に鳴らなくなったら、吹く前に必ずテーブルのホコリをフーッと吹いてみよ、ということです。」
尺八の指導においても全く同じことが言えます。尺八を吹いて今日は良く鳴っているなと感じる時、体の何処にも力が入っていません。尺八は特に鳴らない楽器とされており、習う側、指導者側ひたすら忍耐しなければ続けられません。息の出し方についてもテーブルのホコリをフーッと吹く要領でやれば良いのです。
このことは、いくつもの入門書に記載されていますが、中々理解されていません。
「ピントの合った音で吹け
笛を吹く技法というのは、カメラに良く似ています。どんな音でもそうだと思いますが、ピントがぴたっと合っている音ほど良く聞こえます。ピントの合っていない音は、遠くまで聞こえません。・・・・ピントの合った音というのは、遠音・・・遠くで聞いても聞こえてきます。大きな音で鳴っていても、ピントの合っていない音というのは、絶対に遠音はきかない。小さいピントの合っている音に負けてしまいます。」
私は、ピントの合った音を真音(しんね)、遠くへも音が良く通ることを「遠音がさす」と教わりました。
稽古場や楽屋での音出しで、とても大きな音を出す人がいます。その人が舞台で吹く音が観客席には通らない例が見受けられます。
一報、普段稽古をしているときの音量がさほどでなくとも、舞台から聞こえる尺八の音色が素晴らしく冴え、響き渡る演奏をされる方が私の先輩にも多くおられます。
静かに吹いてもピントの合った音、即ち真音が出ていれば観客席2000席の大ホールでも音は通ります。「真音」を如何に出せる様になるか、私達の大きな課題です。
「笛は心の楽器
笛の諺に“笛は思いを口移し”というのがあるんです。これは、笛の音は、ことばと同じように吹き手の心をそのまま表し伝えるものである、という意味なんですが、このごろ、やっとこの意味がね、分かるようになりました。・・・・・・笛ってテクニックだけではダメなんです。やっぱり、自分の魂、これが笛の音に乗り移らないといけない。吹いて、吹いて、それで死んだら死んでもいいと思っているんです。だから、いつももっと音を削れたらと思っています。」
外曲の稽古をつけていただいた時、師から「もっと歌え、歌うように吹け」と指導されたことがあります。尺八を吹くとき、単にメロディを吹くのではなく、感情を入れなければなりません。
名人の演奏が聴衆の心を打つのは、全身全霊で曲に感情を移入しているからであり、正に“一音成仏”です。先輩の演奏会のタイトルは“一吹入魂”とありました。
「無我の笛
春の美山の里には、ウグイスの声がよく聞こえています。ある日、たまたま出くわしまして、ウグイスが、それはいい声で鳴いておりました。私が笛を吹いたら、たぶんウグイスは逃げてしまうのでは、と思いましたが、ま、試みに吹いてみました。そうしますと、ウグイスがその笛の旋律に合わせてくれるんです。うまいことに掛け合いになりました。・・・・・・ウグイスがいちばん人間の音楽的周波数を持っているんじゃないかと思えるほどです。」
尺八で藤舎推峰師と同じようにウグイスと鳴き交わしたという記事を以前に見たことがあります。琴古流尺八操風会演奏会のプログラムの主催者(佐々木操風師・・・現・晴風師)の挨拶文と記憶していますが、操風師が山路で尺八を吹いていたところウグイスが尺八の呼びかけに答えるように鳴き、しばし尺八とウグイスでの掛け合いをしたとのことです。
宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」にもゴーシュのセロとカッコウの鳴き声とのやりとりの話があります。その様なことが本当にあるのかと岩手県在住の友人に話したら、彼は「尺八でカッコウと掛け合いをしたことがある。」と話してくれました。
ともあれ、私達が三曲合奏をするとき、尺八と箏、三絃とでこのように演奏できれば大変素晴らしく、楽しみも増すと思います。
私がお世話になっている箏曲家の先生は、演奏するに当たって「お話をしよう」とおっしゃいます。「尺八とお箏、三絃と演奏で会話しよう。」ということです。少しでもこの様な境地に近づくことが出来たら良いと思っています。
この本のあとがきに藤舎推峰師は次のように述べておられます。
「自然には、命の大切さというものがあります。笛にも竹の命があります。竹が生きているから笛の音が鳴るのです。死んでいたら、割れてしまいます。ですから、笛をあつかう時も、命あるものとして対しなければなりません。大事にしなければなりません。笛を吹きますと、生きている竹に生きた音をどうやって吹き込んでやるか、ということが大変重要になります。結局、生き物なのです。笛というのは。いかにしたら、綺麗な生き物の音を創れるかということが、私の一生の修行ではないかと考えております。」
私たち尺八を学ぶ者にとり、吹き料の尺八は武士の刀に相当するものです。日ごと息を入れ、吹き込んでいなければ鳴ってくれません。
どうしたら生きた音が出せるか、これからも命をいとおしみ、研鑽を続けることが私の課題です。尺八を吹けることの喜びを皆様と分かち合えることを願って本稿の結びといたします。
※藤舎師は本著作を発行後、二代名生(めいしょう)を襲名されております。
書籍「笛ひとすじ」、著者・・・藤舎推峰 発行所(株)音楽之友社
昭和62年3月20日 第1刷発行
事務局:注、「笛ひとすじ」は新品では入手できませんが、古書として比較的安価にて入手可能です。また、地域の公立図書館でも蔵書しているところがたくさんあります。
【演奏会のご案内】
尺八吹奏研究会 第27回演奏会
古典本曲〜三曲合奏〜大正琴〜演奏会
尺八吹奏研究会では下記のように、演奏会を開催いたします。
何とぞご来場いただき、ご指導をいただければ幸いです。
日時 2011年5月29日(日)
pm.6:30開場 7:00 開演(8:30終演予定)
☆出演 尺八 貴志清一 杉本昇 大正琴 中川恒彦
三絃 村田滋 箏 菊苑馨
☆おもな曲目
○尺八古典本曲
「手向」「雲井獅子」「鶴の巣籠」
○合奏
「六段の調」「末の契」「惜別の舞」
○楽器による歌謡
「涙そうそう」「古城」他
☆場所 豊中市立伝統芸能館
☆交通 阪急梅田より宝塚線「岡町」下車2分
○入場料:無料(整理券必要)
○入場整理券申込方法
出演者・関係者に直接お申し出いただくか、または、
下記の住所宛、往復ハガキに「27回演奏会希望」と明記の上、
住所・氏名・電話番号をご記入の上、お申し込みください。 折り返し整理券(ご案内地図付き)を送付させていただきます。
主催 尺八吹奏研究会(代表 貴志清一)
〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190ー7
【ご案内】
「尺八吹奏法U」ご注文の節は、
邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、http://hj-how.com
(送料別途)
「尺八吹奏法(運指編)」(1,000円)のご注文はハガキにて下記へお申し込みください。