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インターネット会報2011年6月号

                 尺八吹奏研究会 海老名市講習会を終えて(2011.4.16)     
                                               尺八吹奏研究会 貴志清一
 神奈川県海老名市にお住まいの尺八演奏家の方より「口腔前庭」を中心とした講習会と個人指導を依頼されたのは地震災害の少し前でした。
 私の「尺八吹奏法U」の口腔前庭理論をお読みになったお仲間の方々が「自分では、上唇裏に空気がたまった状態で上手く音をコントロールしているつもりですが、実際に尺八吹奏法Uを書いた本人に見てもらいたい」ということで、6,7人の希望者がありました。
 会場の手配、連絡、それに交通費、お一人ずつのワンポイント・レッスン代をご負担していただくと、お一人につきプロの講習代になる旨をご連絡申し上げました。それでも是非ということで講習会が4月16日に決まりました。ところが地震が起こり、日本全体が大変なことになりました。まだ関東地方は断続的に揺れていましたから中止かな、と思っていましたところ「それでも、講習を受けたい」との熱意により4月16日に実施することになりました。
 あらかじめ、6人の方の竹歴と、1時間ずつの個人指導で特に質問したい内容を送ってもらいました。ところがそれを見て、少したじろぎました。
 ほとんどの方が私の竹歴33年よりも長く、各流派でいえば大師範・師範級の方ばかりでした。「おそらく、自分よりも尺八の上手な方もいらっしゃるのではないか。」と言う考えがよぎりましたが、上手な方はこの講習会によって自分の吹き方の正当性・合理性が確認できる機会になるので、それはそれで価値があるだろうということで、行かせて頂きました。

 当日は朝9時から1時間ほど、作成したレジメに従って実演を交えながらお話しさせていただき、その後、午前中2人、午後4人の各1時間の個人講習をさせていただきました。お昼前に急にゆらゆらっと来て驚きました。
 これだけ揺れを感じたのは阪神淡路の地震いらいでした。速報を聞きますと震度4とのこと。しかし参加のみなさんは平然と座っていらっしゃって、もう馴れているとのこと。私だけが慌てていたわけです。ほんとうに関東方面の方々の大変さが身に沁みて分かりました。
 
 さて、個人指導の時、普通は順番の前の人の講習風景を見て、それから自分の番になるのですが、この日は全ての個人指導に6人とも聴講するという形で、思わず個人指導の方よりも後ろに座っていらっしゃった方々に「そうですね」とか、声を掛けたりしました。本当にご熱心な方ばかりで感心した次第です。
 会をお世話していただいた方は、自分自身のリサイタルも2,3回なされている大変な名手でした。それでも、熱心に口腔前庭の確認や、心に染みいるような音色の追求等、指導しているというよりは、お互い尺八談義に花が咲いているようなことになり講習代を頂くのが気が引けるほどでした。もともと口腔前庭を確認したいというご希望でしたのですが、確認するまでもなく、理想的に上唇裏の空気部屋(口腔前庭)を上手く使い、しかも気持ちのいいほどの圧力コントロールをなされていました。思わず、後ろを向いて頂いて、講習者の方に向かって私も吹き、
「まったく同じ感じの上唇の膨らみでしょう。」と言って確認させていただきました。
 あと、5人の方々の指導内容もお伝えしたいのですが、あまりに微に入り細に入りますので、省略させていただきます。
 
 講習会の雰囲気を少しでも味わい、参考にしていただくために、当日のレジメを掲載いたします。お読みいただければ幸いです。
 

【レジメ:2011.4.16】
 この度は、わざわざ講習会にご参加いただきましてありがとうございます。
 あらかじめ頂きましたご質問につきまして、以下の7項目に整理いたしました。本日はこの項目を一般論として説明させていただき、あと、個人指導にて実際の演奏指導させていただきます。
 私自身、尺八吹奏法を短期間でマスターしたわけではありません。ですから、卓越した名演奏はできないかも知れませんが、「何故吹けないか」という自分自身の長い間の格闘の経験が指導に役立つのではないかと考えます。
 ゴシック字は質問事項、明朝体は私のメモです。
 また参考資料「尺八吹奏法U」=U、「尺八吹奏法(運指編)」=運
 例として「山谷菅垣」「巣鶴鈴慕」等の演奏
 
@呼吸法(腹式呼吸)  
初心者に音の出し方を教える方法(ポイント)を教えて欲しい。
 もう4年ほど前ですが、私が指導した初心者で1年経っても音が3,4秒も持たないという方がいらっしゃいました。結局楽器をやめてしまった状態になりました。本人が熱心でなかったこともありますが、やはり私の指導の至らなさが原因でしょう。その時は深く考えなかったのですが、今ではその指導の失敗の原因がよくわかります。
 それは、いつも習いにきている方にはお教えしている「正しい腹式呼吸」をその人にはきちんと指導しなかったということです。
 安定した「ふーーーーーーーーー」という息が出ない内は、決して安定した音はでません。回り道ですが、この正しい腹式呼吸をきちんと教えながら吹き方も教えるのが初心者に音の出し方を教える方法(ポイント)です。お腹の支えのある安定した息が10秒も出れば、そのうちどこかで尺八の鳴るポイントに当たります。当たればそれを体で覚えればいいのです。
 私の弟子には、私のお腹を触らせて、この腹式呼吸を実感させています。
 また、腹式呼吸がどの程度できているか弟子のお腹に手を添えて確認します。これが“きちんと指導する”ということです。
(因みに1年で止めてしまった方は、30代の女性の方でした)
 そう考えれば、きちんとした奏法のできる女性尺八指導者が沢山でてくる必要があると思います。
(「尺八吹奏法U」p5,6,7)を一緒に試しましょう。


息が続かないおおもとの原因は呼吸法にあると思いますが、息を深く多く短時間に吸う方法、長いフレーズを朗々と吹ける呼気のコントロールのコツをご教示ください。
→息は基本的に鼻から吸います。しかし速く吸わなければならないときは二段ブレスをしましょう。即ち、口で吸ってすぐさま鼻から吸うのです。
舞台で独奏曲を吹くと、唇がからからとなり音が出なくなることがある。
 基本的に鼻から息を吸うと、乾燥しません。

Aアンブシュア 
アンブシュアが定まらない。
長い曲を吹いていると途中からよく鳴らなくなる。最後まで鳴らすために気をつけるべきことを教えてください。
 尺八が演奏中に回転しているのかもしれません。管尻に目印をつけるのも一方法です。自分の口に尺八を合わすのではなく、自分が尺八に合わしにいくのです。

唇の形はいかにあるべきか。安定しない。
→これは、考えすぎないで、ひたすら自分の音を聴きながらロングトーンの練習をしましょう。鏡を見ながらの練習は弊害が多いです。

唇の周りの筋肉とそれを鍛える方策
→ロングトーンの練習で自然に鍛えるようにします。

口笛を吹くように丸みを帯びた形とはどのような形か、それと尺八吹奏の関係が良く理解できない。
 これは、上唇の丸みが必要だと言うことです。
 Up10を見ましょう。

長管であろうが、短管であろうが唇の形は同様か
→ほぼ同じだと思いますが、長管の場合はより丸みのある形ですが、形を気にしすぎると泥沼にはまります。長管の乙音が朗々と鳴っているときが長管の理想的な形でしょう。形は結果です。

・唇を閉じて息を漏らす吹き方が良いとされていますが、こうすると、か細い音しか出ずどうしても太い息で吹いてしまいます。そうすると息がすぐなくなり頻繁にブレスしなから吹くことになりますが、息がセーブできて大きな音を出すにはどうすればよいのでしょうか。
→だれが唇を閉じて息を漏らす吹き方が良いと言い出したのでしょう。そんな吹き方では真音はでません。とにかくロングトーンの練習をしながら、息を一番良く鳴るポイントに当てましょう。

よく響く音を出すには口腔を大きく広げ喉の奥も縦に出来るだけ拡げるのがよいとされていますが、吹いているうちに狭まってしまいます。特に「ピ」とか「タ」とか高音や大甲を吹くときは狭まります。口腔や喉の奥を常に広げて保つにはどうすればよいのでしょうか。 
 喉の奥の声帯は、演奏中はかなり狭くなっています。喉を明けるというのは、喉に余分な力を入れないということの方便なのです。
 「喉を常に広げよう」とするだけで、余分な力が入り、いい演奏はできません。あまり気にしないことです。

B口腔前庭 
→口腔前庭が有効に使えれば
音が細くなく、硬くなく(柔らかく豊な音に)できますし、高音から乙ロが朗々と吹けるます。また、音が甲乙常に安定します。
 「尺八吹奏法U」p13を一緒に読んでいきましょう。
 

C尺八自体が自分で鳴ってくるポイントに当てる 
 →尺八には息がエッジに当たって音になる巾が前後2mmくらいあるでしょうか。その2mmの前後の巾を40等分したと考えましょう。即ち1mmの20分の1mmです。この1/20mmの幅の変化で尺八の音色が変わります。(参考「楽器の音色を探る」中公新書)
 尺八奏者は一生かけて1/20mmの巾を探って尺八自体が自分で鳴ってくるポイントを見つけなければなりません。すなわち、音づくりは終わりがないのです。本当に尺八はやりがいのある楽器です。
 さて、私はほんの少しの横ユリでこの「鳴るポイント」を見つけ、そして真っ直ぐな息を落としていきます。いわゆるロングトーンの練習です。
 これを毎日続ければ以下の問題はすべて、だんだん解決していくと思います。

ボリュームのある音。
角の取れたまろやかな、艶のある音。
軽やかな音。
軽く音が出せること。
澄んだボリュームがある音を出す方法をアドバイスして欲しい。
線の太い音色が出せない
自分にあったストローク、スリット、エッジがつかめない
そば鳴りではなく遠くに届く音を出す方法は?
単音のロングトーンなら1分間に四分音符60の速度で16拍吹くことが出来ても、曲になると1分間に四分音符72の速度で4小節のフレーズをブレスなしでなかなか吹けない。小さい音になったり音程が下がってしまう。長いフレーズを一息で且つ朗々と吹くにはどうすればよいでしょうか。


D音色、音楽性 
もう一度聴きたいという演奏ができることを実現するにはどうするか。
 尺八は「音色」に始まり「音色」に終わります。音色を鍛えることが大切です。

E指=運指(持ち方、尺八の回転を含む) 
指先が痺れる。連続した長い曲を吹くと指先がしびれ、孔をふさげなくなる。
→基本的に左右の親指で尺八を支えるのです。そうすれば指に力をいれようがありません、即ち指先にしびれることが不可能になります。
 「尺八吹奏法運指編」p1を見てください。

「ロ」の連打がうまく出来ない
 →指は押すのではなく、瞬間的に「少し上げる」と上手くいきます。

F特殊技法(タンギングを含む)
玉音や束音の出し方を聞きたい。
 「尺八吹奏法U」p38を見ましょう。

速いタンギングが出来ないのですが、どういうすればよいでしょうか。例えば、四分音符1分間138の速度で、 |。ツツレレ チ チ チチ ハハ ヒ ヒ | (朱記は半音)ある速度以上に舌が動きませんが、速いタンギングが出来る様にするにはどうすればよいでしょうか。ダブルタンギングはほんどやったことがありません、指と同期がとれずバラバラになってしまいます。
 →ゆっくりから自分のできるテンポで忍耐強く練習しましょう。
 余力があれば、ダブルタンギングも日々の練習に取り入れると良いですね。
(以上)


【ご案内】
「尺八吹奏法U」ご注文の節は、 
邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、http://hj-how.com
(送料別途)

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〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190-7 貴志清一