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インターネット会報2011年7月号

古典本曲「下り葉」を遡る
(8月21日に尺八吹奏研究会個人講習会:文末参照)
                                           貴志清一
 尺八の古典本曲は江戸時代に成立したことは、尺八愛好家ならだれでも漠然とは理解していることでしょう。それが、ひとたび「いつ?、西暦何年頃?」と聞かれますと、途端に答に窮します。しかし、広く音楽というのは密接に社会や時代と結びついているものですから、古典本曲を演奏する者は歴史や文化のことに無関心ではいられません。
 たまたま東京国立博物館の「月次図屏風」に托鉢、もしくは物乞いをしている薦を腰につけた薦僧(こもそう)の図があり、すでに2011年1月号で紹介させていただきました。 この同じ東京国立博物館には江戸のごく初期に描かれた「洛中洛外図(舟木本)」が所蔵されています。この屏風には祇園祭礼の様子が克明に描かれていて、四条通りを行く傘鉾も見えます。大きな朱傘を押し立てて、鬼の面をつけた人が団扇を振り、赤熊という赤毛のかぶり物をつけた人などが笛や太鼓で囃しています。何か人間集団の大きなエネルギーを感じる画面です。
 たしか、2010年の始めに常設展にて公開されていたようですので、見られた方も多いかと存じます。残念ながら私はその機会を逸しましたが、この「応仁の乱以来ほぼ200年近く続いた、人が人を平気で殺す戦国時代がやっと終わった」という“喜び”、というような単純な言葉では表せない、何とも言えない人々の感情の高揚が写真版でも伝わってきます。
 さて、この場面に二人の笛吹がいます。ひとりは横笛でしょう。そしてもう一人はそれよりも1.5倍ほど長い縦笛です。
 私は美術の素人ですのでよくわかりませんが、長いめの一節切か、薦僧が吹いた尺八のようです。(もし分かればお教え下さい)
 『洛中洛外図舟木本』(奥平俊六著)p93に鮮明な写真版があります。この部分をよく見てください。(IT版は省略)

 私の専門の琴古流に「下り葉(さがりは)」という古典本曲があります。
 江戸時代、琴古流の始祖・初代黒沢琴古(1710生まれ)が本曲をどのように習ったかを詳しく書いたに「琴古手帳」という文献があります。この記録の「下り葉」の部分には、次のように記されています。

「一、下り葉
 右者京都明暗寺御門弟松山子ギオンサイレイ之節吹被申候右松山子ヨリ 伝来仕候」

〈読み下し〉
 右は京都明暗寺、ご門弟、松山子、祇園祭礼のせつ、吹き申され候。右、松山子より伝来つかまつり候。

〈現代語訳〉
 右の「下り葉」という曲は、京都の明暗寺の門弟である“松山(しょうざん)”という方が祇園祭の時に吹かれた曲です。この「下り葉」を私(初代琴古)は松山さんから習い覚えた曲です。

 この文から分かることは、尺八が祇園祭のときに使用され、その曲目が「下り葉」というものです。
 ここで先ほどの「洛中洛外図(舟木本)」の図との関連が見えてきます。
 洛中洛外図が1620年頃の成立ということで、初代琴古が20歳でこの曲を習ったとすると1730年。その間100年ほど経っていますが、祇園祭で尺八がずっと吹かれていた可能性があります。
 この100年の丁度中間ころ、「下り葉」の楽譜が「糸竹初心集(1664年刊)」に載っています 糸竹初心集の影印を見てください。(ITでは省略)

〈さがりは〉(音符)
「ヒイ・・・ヒイ・。・・・ヒ・。ヒイヒイ。ヒ・イヤエ。・・ウエ・。
 エエヤタ・。ヒイイホ。」
注)「・・・」は直前の音と同音。「。」は息ぬすみ。

 現在の琴古流本曲「下り葉」よりは随分短いですね。しかも、これは虚無僧尺八用ではなくて、一節切の楽譜です。楽譜の次の解説には「これを何遍も吹く也。即ち(また)ほど拍子は笛(横笛)の如く也」とあります。
 祭の横笛のようなリズムで吹くということは、おそらくこの曲が祇園祭礼で吹かれたことを暗示します。
 また、この「下り葉」は「堺獅子」などと同じく、一節切の本手(本曲)が虚無僧尺八の本手(本曲)に移行していったことを証明できる曲でもあります。
 この曲のこのような来歴を踏まえて師匠から習った「下り葉」を吹いてみますと、なるほど「鹿の遠音」や「夕暮の曲」などとは違い、何か拍節的な感じがしますし、思いこみでしょうけれど“うきうきした”お祭りの雰囲気も伝わってくるようです。
 ただ、本曲ですので拍節的ななかにも自由自在なテンポの揺れ、何かを暗示するような深みのある演奏も心がけたいと思います。
(この文は2011年7月3日の会で演奏予定の「下り葉」のプログラム解説のために作成したものです。)
 7/3(日)は大阪府貝塚市にて午後2時開演です。ご来聴ご希望の節は、〒590-0531泉南市岡田2-190-7貴志まで「第27回希望」とお書きの上お葉書をお送り下さい。整理券をお送りいたします。(入場無料、要整理券)

【尺八吹奏研究会・夏期個人講習のお知らせ】
 日頃尺八を吹奏しているなかで疑問点や演奏上の悩みも多いかと存じます。流派等の問題で私の稽古場には足を向けにくい方等、この機会にご参加下さい。募集は3名で先着順です。(定員になり次第締め切らせていただきます。その節、ご容赦ください。)
日時 2011年8月21日(日)2時、3時、4時の部(一人1時間)
場所 大阪府泉佐野市、指定文化財新川家・座敷
交通 難波より急行または特急30分「泉佐野」下車徒歩5分
参加費 4000円(当日):申し込み方法 ハガキにて「8/21夏期講習希望」と明記の上住所・氏名を忘れずに投函してください。
  折り返し、ご連絡させていただきます。
 

【ご案内】
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「尺八吹奏法(運指編)」(1,000円)のご注文はハガキにて下記へお申し込みください。
〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190-7 貴志清一