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インターネット会報2011年12月号

大津絵の「虚無僧」について  貴志清一

大津絵は江戸時代、東海道を旅する人たちが今の滋賀県大津・追分で、国への土産として買った、廉価な絵で、だいたい図柄もきまっていました。絵画としてみれば、デッサンはなってないし、決まり切ったパターンを踏襲し、そこには個性の表出など思いもよらない絵です。

 しかし、それのどこが悪いのでしょうか?

 デッサンがなってないのは、かえって稚拙美とでもいうべき、ほほえましいものです。そして、決まり切ったパターンであるからこそ見ていても安心できます。“個性の表出”?、そんなもの、いらない人にはいらないのでしょう。

 第一、この絵は壁に貼っておく“おまじない”の効果があったのです。有名な「藤娘」は「男女・良縁を得る符」でしたし、「鬼の念仏」は子供の夜泣きを止めるまじないの絵でした。

 大津絵については何百という解説書がありますので、ここでは尺八との関係で考えていきます。

 「虚無僧」の大津絵をまず見てください。

 IT上の会報をお読みの方は下記に写真版があります。

http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko30/bunko30_e0299/index.html

 この絵の頃の尺八は今と同じ真竹の根の部分を使った7節程度の普化尺八です。何となく節の位置が不確かですが、別に図像的な正確さは気にしないで描いているのでしょう。好き嫌いはともかくとして、両手の小指がぴんと伸ばしているところなど、本当に音が出ているようです。

 天蓋も形は崩れているようですが、もしかすると江戸前期の深編み笠のイメージが残っているのかもしれません。

 何分、絵は素人ですので憶測ばかりですが、尺八愛好家としましては、たいへん意味のある絵だと思います。過去何百年もの間、日本人は尺八という雑音的な要素を持った音色を愛してきたのだなあ、ということをこの絵から教えられます。

 「虚無僧」の大津絵に関して、専門家の解説が『祈りの文化』(信多純一著)のp128にありますので、抜粋、要約させていただきます。

 この絵は男女の別がはっきりしませんね。襟や裾に見える下着の朱がわずかに女性であることを示しているようです。すこし尺八の歴史を知っている人ですと、おやっと思うでしょう。尺八は普化宗の法器で、武士以外は吹くことは罷りならん!はずで、女性が吹けるとは考えられないということです。しかし、そう言う紋切り型の知識は物事を見誤るものです。

 『追分絵』という江戸時代の本には尺八ではなく、三節切(初期の普化尺八)を吹いて流す女芸人図があります。句が添えられていまして、

「曲涼し 誰か門立を たが娘」とあって、明らかに娘(女性)の門付けであることがわかります。

 また、男性が尺八を吹いたのは例など不要ですが、一つあげれば、若衆(男性)が吹いたものとして、延宝(1673〜80)頃の『孝雄狂歌集』に

 「若衆の 尺八を吹いたる所をかいたる絵に

  尺八は よだれはぬれぬひとぞなき 

    ふかき愛河の れんぼながしに」

とあります。“よだれ”は少々汚いのですが、この中に私の専門とする琴古流本曲「恋慕(鈴慕)流」が出ていて、なかなか興味深いのです。

 当時、若衆が虚無僧姿で「恋慕流」を吹き流しながら市中を歩いていた様子が分かります。

 以上、まことに簡単な大津絵「虚無僧」の紹介でしたが、尺八の歴史も勉強しますとますます尺八を吹くのが楽しくなるのではないでしょうか。



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