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インターネット会報2012年5月号

インターネット会報2012年6月号、以下見出しと本文

CD:琴古流本曲を長管で吹く(頒布要項は文末)
    2012年7月1日小演奏会と個人講習会(文末)
                                                     貴志清一
「貴志さんが吹くのですか、たしか琴古流でしたよね」(古典本曲尺八奏者)
「これからは二尺四寸の長管で(琴古流以外の)古典本曲をはじめます」(竹歴40余年の琴古流奏者)
 
 いきなり会話文から始まりましたが、はじめの方は河野玉水宅で新たに地無し延竹ゴロ節残しの二尺四寸管を作ってもらっていた時に、たまたまいらっしゃった古典本曲を主に吹かれる方の言葉です。
 地無しの一尺八寸管も3年以上息を通し少し息筋が見えてきたように思えましたので新たに長管に挑戦すべく、地無の長管で琴古流本曲を吹きはじめた今年の1月頃の話です。
 「たしか、琴古流ですよね」と言葉をかけられ、私が琴古流の奏者だと知っていただいているのは嬉しかったのですが、すぐ「琴古流の者が琴古流本曲を長管で吹いて、どこが悪いのか?」と顔には出しませんでしたが、むっとしました。
 でも、むっとする方が間違っていますよね。琴古流本曲を二尺四寸ほどの長管吹くのを誰もあまり見たことがないからです。

 ひるがえって、江戸中期、琴古流本曲は初代琴古から半音を含む陰旋法に改編し、華麗な手を加えていき明治以降、だんだん三世荒木古童の吹くような姿になってきました。そしてそれらは、だいたい一尺八寸位の長さの竹で吹かれました。 現存する江戸時代の琴古作の長い目の竹でも二尺ほどです。
 ですから、“琴古流本曲を吹く琴古流奏者は長管は吹かない”という認識が生まれたのだと思います。
 一方長管は古典本曲の世界ではすでに極めて普及しています。有名な海童道祖は1911年生まれですが、手元にある音源を見ても、
「薩慈」二尺四寸
「わたづみの調べ」二尺八寸五分
「巣鶴」二尺三寸
「山谷」二尺七寸、等々
そして「一二三の調」はなんと、三尺一寸五分を使っています。
 三尺一寸といえば、ほとんど1m近くになります。そして、極めつけは、
「本調」三尺四寸の孟宗竹でできた大巨管で演奏しています。
 海童道祖の表現力もありますが、長管の音色というのか雰囲気というのか、それ自体が魅力のかたまりです。
 長管は聴いていいものですが、吹くとその何百倍も気持ちのいい竹です。
 
 さて、この長管は、江戸時代にはあまり普及しませんでした。おそらく製管が極めて難しかったのではないかと思います。しかし幕末には太さがすごい、いわゆる「巨管」を吹くことが一時流行ります。どこに顎を当てたらいいのか見当も付かない古巨管を試し吹きさせていただいたことがありますが、その時は「御免蒙ります」といった感じでした。
 たしかに一尺八寸よりは長い、太い尺八は、その音自体がもう魅力的なのですが、古典本曲の世界に長管が広まっていくのは谷狂竹からです。この辺の事情を尺八研究家の第一人者である神田可遊氏が『尺八研究 第4号』で克明に述べていらっしゃいます。
 すなわち、今の長管を流行らせた元祖は谷狂竹であり、彼は、源雲界作の二尺五寸管で、インドまで出かけたりして、この道(長管)の先鞭をつけたといえます。
 谷狂竹、1882年生まれの1950年没ですから、彼が長管の魅力を発見し広めていったのはおよそ100年前です。海童道祖も、横山勝也師も長管普及に大いに影響力があったのですが、その歴史はなんと100年もあるのです。
 それに比べると、琴古流本曲を長管で吹くというのは、その歴史は歴史とも言えないくらい、かぎりなく零に近いのです。ですから、
 「貴志さんが吹くのですか、たしか琴古流でしたよね」
とおっしゃった方は、正に正しいことを言っているわけなのですね。

「これからは二尺四寸の長管で(琴古流以外の)古典本曲をはじめます」と竹歴40余年の琴古流奏者が私に仰ったことも、まったく理由のないことではありません。琴古流には長管で吹く本曲がない、と琴古流奏者自身が思いこんでいるのですから。かく言う私も20年ほど前から時折、地塗りの二尺四寸で「手向」などを見よう見まねで吹いていました。

 さて、これだけ長管が周りに見え隠れしますと、琴古流奏者といえども、もともと尺八好きな訳なのですから、この長管の音の魅力・俗に言えば“低音の魅力”には禁欲的でいられるわけはないのです。
 私の住んでいる所は住宅も多いのですが、まだまだ田舎の雰囲気を残していまして、田植え時期からカエルが鳴き出します。特にウシガエルは声が低いのでグワーグワーというような鳴き声です。もちろん雄が雌を呼んでいるのでしょうけれど、雌一匹に雄二匹が寄ってきたとします。野生の秋の鹿なら雄同士、角で戦いますが、カエルはもっと平和的な勝負をします。すなわち、“鳴き合い合戦です”。といっても大声ではなく、“いかに低い声で鳴くか”という戦いです。種の保存をかけた命がけの勝負です。そして結局、相手よりも低い声で鳴いた方が雌が近づく権利が生じて、声の高い方が負けとなります。生物界でも“低音の魅力”にはすごい力があるのです。
 
 それはさておき、琴古流で何十年も尺八を吹いてきた奏者は、もちろん長管を吹くことはすぐにできます。そして始めてみると、「何を吹こうか?、歌謡曲や童謡だけではすぐに飽きてしまうし。」となります。そうするとやはり100年間錬磨されてきた他流の古典本曲を習うことになります。
 しかし、ちょっと待ってください。
 琴古流本曲は1710年生まれの黒沢琴古が収集した36曲あまりの本曲よりなっています。琴古流本曲は古典本曲なのです。
 琴古流の奏者は本曲を持っているのです。ですから一番自然な考え方は、「琴古の奏者が長管で琴古流本曲吹く」ということです。

 ただ、すでに述べたように琴古流には長管で吹く歴史がありませんから、まずは長管に合う曲、そうでない曲を判断しなければなりません。
 たとえば、華麗な奏法を発達させてきた「巣鶴鈴慕」、連管の掛け合いを楽しむ「鹿の遠音」などは一尺八寸の方が断然良いでしょう。
 ところが、「一二三鉢返」や「夕暮の曲」、「霧海D鈴慕」などはきわめて長管によく合います。そして、その他の曲も丁寧にコロの指を速く動かせるようになればまた趣の変わった長管向きの曲となるでしょう。
 「山谷菅垣」は白井権八が普化宗を破門されたとき、一孔を使ってはいけないということで、一孔を全く使わないで吹けるように工夫した曲です。
 この曲など、右手(下の手)で尺八を下から握るようにして第二孔を親指で押さえて楽に演奏できます。「夕暮の曲」なども、途中、この右手で握る方法で演奏できますので腕への負担が最小限に押さえられます。
 琴古流本曲は長管向きの曲が割合たくさんあるということは、実際の吹奏から確信を持って言えます。

 話は変わりますが、今から100年程前でしょうか、初代琴古作の“雲上律”という銘の二尺五寸管が偶然発見され「琴古流尺八史観」を著した中塚竹禅が夢中で吹いたという話があります。(戦前の雑誌『三曲』掲載)
 初代琴古作かどうかは、わたくしには分かりませんが、とにかくそれは琴古流宗家の川瀬家に現存します。
 もし、この雲上律が初代琴古作ですと、250年程前に、琴古流流祖自身が長管の魅力を発見したかもしれません。また、琴古流の中塚竹禅が100年程前に夢中になったという事実。そして現在、改めて「長管で吹く琴古流本曲の魅力」を琴古流奏者たちが再発見していく、そういう長管の発見の流れになるでしょうか。
 ここで提案ですが、琴古流の愛好家のみなさんは先入観を捨てて「長管」と取り組んでみてはいかがでしょうか。
 私の持ち竹のように、二尺四寸管でなくても、二尺一寸もあれば長管らしい音もします。
 この文章を読んでいただいた琴古流の方々が、それぞれの演奏の機会毎に「長管で吹く琴古流尺八の魅力」を伝えていってくださることを願っています。そして、たくさんの優れた琴古流奏者による演奏が広まることを楽しみにしています。
  
○研究資料「CD二尺四寸地無し管で吹く琴古流本曲(抜粋版)」の頒布 
 本格的に二尺四寸管を吹初めてまだ4ヶ月しか経っていませんが、誰かが始めなければ物事は前に進まないということで、僭越ながら参考資料として琴古流本曲4題(抜粋版)音源資料として作成しました。
 もともと、このCDは私の弟子で二尺四寸管をなんとしても吹きこなしたいという熱心な方の為に作成したものです。
 もし、長管で吹く琴古流本曲にご興味のある方がおられましたら、頒布させていただきます。下記の要領でお申し込みください。

・題名「CD長管で吹く琴古流本曲」
・内容「夕暮の曲」「山谷菅垣」「霧海D鈴慕」「一二三鉢返」(いずれも抜粋)・録音:簡易なレコーダーによる録音。
・収録:自宅和室(座敷)
   :イコライザー等による効果(残響等)の処理は一切無し
・吹料:三代目河野玉水作 地無し延べ竹ゴロ節残し二尺四寸管
・備考:今は絶版になっています三浦琴童譜付き(4曲)
※抜粋箇所を□で囲んでいます。
・頒価:500円(送料込)
・申込:ハガキに「CD長管・琴古本曲 希望」とお書きの上
住所、氏名、を明記して下記へお送りください。
  〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190-7 貴志清一 迄
・資料が到着後代金500円を郵便為替等にてご送付ください。 

【ご案内】 尺八吹奏研究会第31回
 琴古流本曲尺八演奏会と個人講習会〜琴古本曲を長管で聴く〜

出演 尺八:貴志清一 菅原誠 
日時 :2012年7月1日(日)午後1時より
場所:大阪府泉佐野ふるさと町屋館(市文化財)南海本線泉佐野駅より徒歩5分

○琴古流本曲尺八演奏会1:00〜2:00
地無し長管尺八を中心にした琴古流古典本曲
 二尺四寸管「霧海D鈴慕」等、 一尺八寸管「真の虚霊」、連管「鹿の遠音」
○今回は尺八だけの小さな演奏会です。地無しの素朴な尺八の音色をお楽しみください。

尺八個人講習会 2:00〜5:00
○尺八吹奏上の問題につきまして、1時間ですが実技を通して一緒に解決していきます。吹料の特性、腹式呼吸、口腔前庭、等々・3名募集です。(先着順にて締め切らせていただきます。)

○参加費  尺八演奏会 無料(要:入場整理券) 個人講習会 4、000円
○申し込み法 ハガキに「31回希望」
または、「31回・講習会希望」と明記し 住所・ご氏名・番号、御参加人数をお書きの上、下記までお申し込みください。 折り返し入場券(地図付)をお送りいたします。
(講習会ご希望の方へは、参加可能の有無、可能な場合は要項をお送りさせていただきます。) ○宛先〒590ー0531泉南市岡田2ー190ー7貴志清一


【引き続きEメールによる尺八の悩み相談を受け付けています】
(ローマ字のxxxを@(半角)に変えて、ご送信ください。    kiyosanxxxdune.ocn.ne.jp
○ご質問に対して、順次回答させていただきます。
○ご質問者、内容等の情報は保護いたします。
○非難・中傷のメールは無視させていただきます。
○中傷・妨害等により、継続できなくなったときは中止させていただきます。
(この場合、最新の尺八吹奏研究会HPにてお知らせいたします)

【ご案内】
「尺八吹奏法U」ご注文の節は、 
邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、http://hj-how.com
(送料別途)