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インターネット会報2012年8月号


      歯間ブラシと糸楊枝は尺八奏者の必需品!
                                    貴志清一
 この会報も280号を数えますが、実際に「歯」のことを扱った記事はほとんどありません。それは「歯」のことが尺八奏者にとって重要ではないという理由からではありません。会員のみなさんの中で、とくに年輩の方にとってこの「歯」の問題は大きな悩みとなっていることが多いようです。
 ただそれを個人のレベルで処理もしくは諦めているからではないでしょうか。
 虫歯はもちろんのこと、歯槽膿漏等の歯周病でも尺八吹奏が不可能になる、もしくは吹奏能力が大幅に落ちることは今更言うまでもないかと思います。
 虫歯・歯周病は歯の間にたまった食べかすが主な原因で、やがて歯垢がつき歯石となれば、これは定期的に歯医者さんに行かなくては歯ブラシだけではどうしょうもありません。
 「歯」に関しては私も何か“避けたい”ところがあって、あまり偉そうに言えませんが、せめて長く吹くために「歯ブラシ」だけでなく、歯間の汚れや食べかすを確実に取れる歯間ブラシと糸楊枝(デンタルフロス)を使いましょう。
 はっきり言って、歯の汚れをしっかり取る歯間ブラシと糸楊枝を使えば、歯のトラブルが出てきて尺八吹奏が困難になったとき、また演奏会の前日に歯医者に行って麻酔を打たれる羽目になったとき「あ〜〜、情けない、吹けない・・・・」という悲惨な目に合いにくくなります。これは確実に言えます。信じてください。
 ここまで読んでいただいた方で歯間ブラシと糸楊枝をお持ちでないときは薬局・スーパーへ行きましょう。歯間ブラシは自分の歯の隙間に合ったものを使い、丁寧に歯と歯の間を軽くブラシングしましょう。糸楊枝は狭い隙間用ですが、無理しないように注意して前後にこすりましょう。
 あと、口をすすいだときに「あっ、こんなに汚れていたのか」と気がつくはずです。その時、心の中で言ってください。「あっ、こんなに今まで尺八を吹ける期間を縮めていたのか」と。
 さて、ここまでは一般論なのですが、みなさんの中で尺八の調子が日によって大きく違うことはありませんか。
 もうかれこれ10数年前でしょうか。運悪く、それこそ歯間ブラシと糸楊枝をきちんと使っていなかったのでしょう、上の前歯の隙間部分に軽い虫歯ができました。尺八奏者にとっては一大事!ということで早速かかりつけの歯医者さんに行きました。幸いエナメル質に虫歯ができているだけでしたので、削ってもらいあとプラスチックのようなものを詰めていただき治療が終わりました。「ああ、軽くすんでよかった」と思っていつもの如く練習を始めました。しかし、1日吹いていないだけで、まったく音のコントロールが利かないのです。音色もあまり良くありません。本当に焦りました。幸い演奏会の本番等は控えてなかったので良かったのですが、自分の書いた「毎日のウオーミングアップ」が上手く吹けないのです。なにか、息が尺八に届かないような感覚でした。それこそ必死に原因を探りました。
 思い当たることはただ一つ、歯の治療です。そういえば、私は上前歯の間に自然にできた直径0.5mm程の、それこそ普通に見ると見過ごすような孔があります。治療によって、これはきれいに塞がれてしまっていたのです。「これが原因に違いない」と、またまた歯医者さんに予約を取って「実はここに前は見えないほどの隙間があり、これがなければ今までの尺八演奏が困難になります」と事情を話しました。先生は「分かりました」とおっしゃって、どの程度の孔か少しずつ試しながら開けてくれました。丁度良いところで止めてもらい、お礼を言って早速帰って尺八を吹いてみました。すると、どうでしょう。劇的に吹奏が楽に、今まで通りの音色・吹き心地・音のコントロールが戻ってきたのです。
 たった1mmにも満たないような穴で、こんなにも違うのかと驚きました。 そのあと、あまり衛生的ではないのですが、お饅頭を食べたあと、そのまま餡が前歯のその隙間を埋めている状態にわざとしておき、尺八を吹いてみました。そうすると、なんと音のコントロールが利きにくいのです。その前歯の隙間をそっと歯間ブラシでブラシングして汚れを取り、また尺八を吹きますと有効に口腔前庭が使うことができて音をコントロールことが可能になったのです。
 嘘のような話に聞こえるかも知れませんが、本当です。
 この種の話はあまり美しくありませんので書きたくなかったのですが、歯の隙間のほんの少しの状態の変化でも、尺八吹奏に大きく影響します。
 もし日によって尺八の調子が違う方は、常に一定の“歯のきれいな状態”にして毎日練習してください。きっと安定した吹き方が得られると思います。 それというのも、昨日は左の方に小さな異物がある状態、今日は右の奥に食べかすの有る状態、明日は上の前歯に小さな異物がある状態、等々、これでは安定したお腹からの気流を有効に竹に届かすことはできません。
 かならず、吹く前には歯間ブラシと糸楊枝で歯の隙間をきれいにしておきましょう。歯間ブラシと糸楊枝できれいにした上で歯ブラシを使って歯磨きをするとよいでしょう。ただし、歯磨き粉には注意しましょう。何と云っても歯磨き粉は研磨剤なので過度な使用は歯を磨滅させます。頻繁に歯をきれいにする人なら水洗いでもいいでしょう。歯磨き粉は、朝昼晩、寝る前ぐらいの使用でしょうか。ただし、歯の質が弱い人と強い人がありますから、ややこしいときは是非かかりつけの歯科医師さんと相談してください。
 もう一度繰り返します。
歯間ブラシと糸楊枝は尺八奏者の必需品!です。
 しぶとく言いますと、
 「尺八吹奏法U」の、自由自在な音のコントロールを得るための口腔前庭造りは歯間ブラシと糸楊枝から始まります! 

 最後に、わたくし自身の前歯のほんの少しの隙間がどうも「口腔前庭」を作り易くしているとお考えの方もいるかと思います。しかし、この隙間がなくても口腔内はつながっておりますので、どこからでも空気を上唇裏にもってこれます。もしかすると、私のこの隙間がかえって口腔前庭形成に邪魔になっている可能性もあります。この隙間が、もともとあったのに、歯科治療のために塞がり、感覚が狂っただけかもしれません。ですから、まかり間違ってもご自分の健康な歯に穴を開けるという無謀なことはしないでください。また歯科医師の先生に開けてもらうことも同じように無謀なことです。
 そんな時間が有れば、1分でも多くロングトーン(音を長く伸ばす練習)をしましょう。わたくし自身、尺八のことになると周りが見えなくなる傾向がありますので気持ちは分かるのですが、決してご自身の健康な歯はいじらないでください。
 そして、この記事を読まれた方は、もし知り合いに「前歯を削ると音が良くなる」という恐ろしい噂を信じている方がいましたら、即座に「それは間違っている、おかしい、信じてはいけない」と言ってあげてください。
 私の知っているT氏など、16,7才の時にトランペット仲間の噂で「前歯を削ったらプロみたいな演奏ができるのだ」と小耳にはさみ、それが歯と歯の間の縦の隙間だとは知らず、悲しいことに上前歯の先端を水平方向にエナメル質はおろか象牙質近くまで削ってしまったのです!
 もちろんトランペットの腕は一向に上がらず、悲惨なことに、まもなく前歯が虫歯になり、なんと22才ごろには上前歯2本がぼろぼろになって抜け落ち、とうとう差し歯にしてしまいました。もちろんその頃にはトランペットなんかナランペットになってしまっていました。悲しいことではないでしょうか。誰か言ってあげてほしかったです。私は自分のことではなかったですけど、その話をT氏に直接聞いて目が潤みました。無知な中でけなげに努力している人間をここまで痛めつける権利なんか誰がもっているのでしょうか。
 
参考書「すべての管楽器奏者へ」根本俊男著(音楽之友社)

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