戻る

インターネット会報2012年11月号

尺八愛好家のみなさん『密息で身体が変わる』は必読の書です
(神崎・貴志による新春尺八コンサート1月12日の案内・文末)
貴志清一
(本文) 
新潮新書『密息で身体が変わる』はもうお読みになりましたか。著者は一流プロ尺八奏者の中村明一氏です。氏は横山勝也に師事しバークリー音楽大学、ニューイングランド音楽院大学院で学ばれました。CDも多数出し、世界30カ国余で公演されている名演奏家です。文化庁芸術最優秀賞を2回受賞され、文化庁舞台芸術創作奨励賞など多くの賞に輝いていらっしゃいます。文字通り私たちアマチュア尺八吹きの憧れの的です。

 そんな超一流プロ奏者が、尺八にとって一番大事な呼吸法について書いた本が『密息で身体が変わる』なのです。この本は尺八愛好家が一度は読むべき本だと思います。
 もちろん、今の時点でも絶版にはなってませんので全国どこの本屋さんでも入手可能です。

 さて、この本に書かれている「密息」が分かれば超一流プロがおこなっている呼吸法が獲得でき、演奏も一流プロに近づくことができるようです。
 (以下、ページは断らない限り『密息で身体が変わる』の本文です)
p13「この呼吸法では、一度の呼気量・吸気量が非常に大きくな」るのですから、尺八奏者は絶対に獲得したい呼吸法だと思います。

 それでは具体的にこの「密息」という呼吸法はどのようなものなのでしょうか。『密息で身体が変わる』から引用しましょう。

 p13
「ごく簡単にいえば、腰を落とし(骨盤を後ろに倒し)た姿勢を取り、腹は吸うときも吐くときもやや張り出したまま保ち、どこにも力を入れず、身体を動かすことなく行う、深い呼吸です。外側の筋肉ではなく深層筋を用い、横隔膜だけを上下することによって行うこの呼吸」が密息です。

 さすがに一流プロ奏者のおこなっている呼吸はどこか普通の管楽器奏者とは違いますね。
 私たち尺八愛好家のアマチュアには理解できないところもあるかと思います。たとえば、
「どこにも力を入れず、身体をうごかすことなく」という言葉にたいして、
アマチュアは、
「息を吐いたり吸うたりするときは、体のどこかに力が入り、どこかがうごくでしょう」と初歩的な反論をするかもしれません。
 しかし、そんな人は一流プロにとっては、
「未熟者!」でしかありません。
"心頭滅却すれば火もまた涼し"なのでしょう。
 呼吸を練っていけば、力は消え去り体は自然体で動くことなくきわめて滑らかな呼吸、しかもそれは力強い呼吸の域に達することを言っているのだと思います。
 伝説ですが、宮本武蔵が朝の膳に向かっているときご飯の上に蠅が止まりました。武蔵は持っていた箸でそっと蠅を挟み、その後蠅を放ったといいます。それくらい精神を集中すれば、気合いを漲らせれば蠅が気づかないほど自分の存在を滅却できるということです。
 
 しかし残念ながらこの本を読む大多数の人は「未熟者」なのではないでしょうか。
 『密息で身体が変わる』の言わんとしていることは、どうも達人の域に達した人でないと理解しにくいのだと思います。
 僭越ながら、私も未熟者なのですが、尺八の達人・日本音楽に通じ海外の音楽大学で研究を深めた音楽の達人の言葉をせめて素人にも分かるように解説させていただきたいと思います。
 それによって、改めて『密息で身体が変わる』の本文の理解が深まり、ひいてはご自身の尺八吹奏能力の向上につながると思います。

 再び密息の説明を取り上げましょう。
 p13
「ごく簡単にいえば、腰を落とし(骨盤を後ろに倒し)た姿勢を取り、腹は吸うときも吐くときもやや張り出したまま保ち、どこにも力を入れず、身体を動かすことなく行う、深い呼吸です。外側の筋肉ではなく深層筋を用い、横隔膜だけを上下することによって行うこの呼吸」が達人の密息です。
 しかし、この域に達する前に通常の正しい管楽器の腹式呼吸を習得しておかなければなりません。
 正しい、もしくは効率の良い管楽器の腹式呼吸は次のようになります。
・背筋を伸ばし骨盤も真っ直ぐにした姿勢を取ります。
・そして、まずお腹に力を入れて息を吐ききります。
・吐ききった瞬間、お腹の力を緩めますと一瞬で口・鼻両方からお腹の底に空気が自然と入ってきます。
・このとき軽く口を開けておくと、まず口から息が入り、素早く口を閉じると入る息の後半は鼻から入り、深い理想的な吸気ができます。
・その入った空気を逃さないように腹に力を入れます。
・そして徐々に息を出していきます。そのとき、現象としては腹が徐々に凹んでくるのですが、気持ちとしては腹が凹まないように力を入れて支えます。
・これの繰り返しですが、吐く息は長く、入る息は短くなるようにします。・このとき外側の筋肉の腹筋・背筋にはかならず適度な力を入れましょう。
・また、横隔膜はそれ自身動きません。腹筋等の動きに合わせて上下しますので横隔膜を上下させる意識は持たないようにします。
・理想的には、感じとして腎臓のあたりにまで空気を入れる気持ちが大切です。
・これを毎日ロングトーンとともに、すべての尺八の音で練習します。
・そして、尺八は呼吸の訓練だけではありませんので、。常に良い音、よりよい音を目指して練習しましょう。

 これだけのことをしっかり習得してから密息の段階へ進むと尺八は急速に上達すると思います。
 上記の通り、正しい管楽器の呼吸法を述べるのにたくさんの箇条書きを並べました。
 しかし、一流プロの呼吸法・密息は説明も短く、その分核心を突いていると思います。アマチュア尺八の皆さんは、早く正しい管楽器の呼吸法を習得し、その後超一流のプロが使っている密息に進んでいってください。

 さて、『密息で身体が変わる』を読み進めていきましょう。
  
p58「 「密息」という言葉の響きがまた、秘密の技法を連想させます。けれど、海童道祖がどのような考えで命名されたのかはたしかではありません」

 海童道祖は尺八に対して独自の考えを持っていました。たしかに海童道祖の考えは通常人の想像を超えていると思います。
 『密息で身体が変わる』は新潮選書という一般向けの書籍ですから詳しくは書いていませんが、1975年出版の『一つの音に世界を聴く』という故武満徹の対談集にヒントがあります。(現在でも書店で手に入ります。)
 少し引用します。
七十八ページ
「海童 密息の修行が理と事の基本です。ただし、呼吸は、あまり止めてはいけないのです。(中略)それから呼吸は、入る息よりも出る息の点が長いことに生命力の強さを見るのです。(下略)」
そして七十七ページ
「(呼吸は)具体的には鼻と口の方法によって、常息ということと密息ということの、二つの方法があります。常息というのが普通の呼吸であって、結局はこの常息に還元していくわけです。ところが芸術を行う人は、宗教、武道等を行う人もそうですが、密息の修練が大切です。これは、呼吸をある程度、瞬間に、吸うた時なら十分に吸うた時に止めるのです。普通の人には、その止めることができないのですね。それを、精進によって、止めることができるようになります。そういう密息の修行をやる必要があるわけで、それが、ものにたじろがないもとになる。(以下略)」

 この『一つの音に世界を聴く』を読みますと、わりあい密息のことがよく分かります。
 しかし!です。七十八頁に戻りますと、
「密息の修行が理と事の基本です。ただし、呼吸は、あんまり止めてはいけないのです。二、三秒から六、七秒以内のものです。ゆっくり吸い込んだ息を止めるのですよ。それを静かに出して、また止めるんです。今の人たちにはそういう錬磨がないのですね。(以下略)」

 ここに密息の具体的な方法が示されています。それは達人、超一流の演奏者にのみ許されたきわめて難しい課題です。
 おそらく、息を7秒も止めますと、たいていの人にとって健康に有害になります。これは誤った呼吸法「努責」(どせき)という息を止める呼吸法で、これによって白隠禅師や釈尊が若いときに病を誘発してしまいました。 その後正しい呼吸法、息を吐ききる「丹田呼吸法」を行うことで健康を回復したことが白隠の『夜船閑話』に綴られています。
 普通の人は、決してこの息を止める「努責」(どせき)をおこなってはいけません。

 『密息で身体が変わる』のp42に中村氏は白隠禅師とその著書『夜船閑話(やせんかんな)』について言及されています。
 ということは、私の想像ですが、さすがに超一流の尺八奏者である氏は、あえて海童道祖の密息を具体的に紹介しないようにし、尺八愛好家が間違った「努責」(どせき)を実行しないように、あえて海童道祖の密息を曖昧に"秘密の技法"と表現したのではないかと想像します。

 この息を止める「努責」(どせき)は健康を害します。第一、息を止めれば体に有害な二酸化炭素が体に充満することでも、それが分かります。
 吐く息、吸う息は常に流れていなければなりません。私はお稽古の時、弟子の呼吸を見ていて、吸う息と吹くときの吐く息の間に滞りがあれば注意することもあります。すなわち「吸う息の終わり頃に息を吐く気持ちで尺八の音を出すように」指導します。

 まだまだこの『密息で身体が変わる』の中に、一流のプロ奏者ゆえに尺八愛好家には理解できない、もしくは誤解を招く表現がたくさんあります。 「骨盤を倒す」などはその典型だと思います。骨盤を真っ直ぐにしていなければ尺八など吹けるはずがないのですが、腹の底まで息が充満する完璧な吸気をするときは感覚として骨盤が少し押されたように感じます。
 それを素人に説明するときに、あえて「骨盤を後ろに倒す」と表現しているのでしょう。
 ですから、「骨盤が後ろに倒れる」感覚を持つほど下腹部いっぱいに息を充満させられる一流プロ奏者には適切な表現でしょうけれど、そうでない尺八愛好家は「骨盤を真っ直ぐ」にして、背筋を伸ばした良い姿勢で吹いてください。
  
 さて、本文を読んでいきますと実にたくさんの一流奏者用の解説があります。逐一それを説明するのはまた別の機会に譲りたいと思います。
 とにかく尺八愛好家はこのレベルの高い『密息で身体が変わる』をしっかり読み、実際の尺八練習ではまず正しい管楽器の腹式呼吸法を身につけてください。
 そしていつの日か、この「密息」を実践できる日を目標に日々の練習に精進していってください。
 手前味噌で恐縮ですが、正しい管楽器の腹式呼吸については、私の書きました「尺八吹奏法U」の中で3頁にわたって解説していますのでお読みいただければ幸いです。また私(貴志)尺八教室のワンポイントレッスンにて呼吸法の確認にお越しいただいたもよろしいかと思います。
(「尺八吹奏法U」は邦楽ジャーナルの通販にて取扱中。尺八吹奏研究会に直接ご連絡いただいても可能です)

 最後に、日本を代表するプロ尺八奏者の素晴らしい著作『密息で身体が変わる』に対してまだ修行途上の者が解説するという、大それたことになってしまいましたが、この文章が素人の尺八愛好家にとって参考になれば幸いです。 尺八愛好家のみなさん、是非ご自身で『密息で身体が変わる』を読んでみてください。きっと何か、得るところがあるかと思います。


【ご案内】
「尺八吹奏法U」ご注文の節は、 
邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、http://hj-how.com
(送料別途)



【演奏会ご案内】尺八吹奏研究会 第33回演奏会
神崎憲・貴志清一尺八新春コンサート

日時 2013年1月12日(土)pm.1:30開場 2:00 開演
☆出演  尺八:神崎憲・貴志清一 
       箏 :菊紀美葵
☆演奏曲目(予定) 
1.呼竹受竹
2.春の海
3.夕暮の曲
4.鶴の巣籠
5.惜別の舞
6.鹿の遠音

☆場所 イロリ村プチホール
   〒530-0016 大阪市北区中崎1丁目4-15 Tel 06-6376-0593
☆交通 地下鉄谷町線「中崎町駅」1番出口を出て、北野病院方向へ進み、
JR環状線の高架手前(セブンイレブンの角)を高架に沿って右に入りすぐ
☆入場料:1000円
☆チケット申込方法
 下記演奏者に直接お申し込み下さい。 折り返しチケットを送付させていただきます。
 〒550-0015 大阪市西区南堀江4-2-9-704 神崎憲   Tel 06-6534-6303