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インターネット会報2013年1月号

虚無僧掟書の「尺八を吹いていいのは武士たる虚無僧だけ」条項が後世に及ぼした影響
貴志清一

あけまして おめでとう ございます。
本年も よろしく お願い申し上げます。

 昨年、2012年6月に京都で国際尺八フェスティバルが盛会の内に終了しましたが、そこでは尺八が全世界的に広まっていることを肌身で感じた次第です。
 しかし、ほんの150年前までの江戸時代、表向き尺八を吹いていいのは武士の内でも虚無僧だけだということが罷り通っていました。その法的根拠が慶長19年正月に出された「虚無僧掟書」なのです。
 慶長19年は1614年にあたりますから、1868年の江戸幕府崩壊までの250年の長きにわたって尺八は虚無僧の独占物になります。
 明治以降の研究者が「虚無僧掟書は偽物である」と証明していまして、また新井白石なども「偽物くさい」と述べ、幕府官僚たちもそう思っていた節があるのですが、浪人対策のためとうとう延宝5年(1677)に寺社奉行が虚無僧を禅宗の一派として公認した形をとります。
 いつの時代でも既得権を得た組織というのはその権利を拡大解釈し、自己の利益のためにとんでもないことをし始めます。
 たとえば、
「虚無僧は日本国中を回るものだから、あらゆるところ、芝居小屋であろうと渡船でも往来が自由にできる」、いわゆる究極のフリーパスの権利があると主張し出します。
 江戸時代も後半になりますと虚無僧が暴れまわるという状況もでてきて農村の村人たちに迷惑をかけることが多くなってきます。戦前生まれの方ですともしかすると「虚無僧はコワイ」という思いを持っているかもしれません。これはおそらく江戸時代の不法虚無僧たちが作った社会的イメージでしょう。
 不法虚無僧や、それと密接な関係にある「留場」制はたくさんの研究がなされていますので、それらを参考にしていただくことにして、ここではめちゃくちゃな準法令「尺八を吹いていいのは武士たる虚無僧だけ」について考えます。
 虚無僧掟書が偽書であり虚無僧にとって都合の良いことばかり書いている証拠として、決まった形のものが存在しないことがあげられます。10条くらいのもあれば20条くらいのも有ります。
 ここでは取手市・染谷籐左衞門所蔵「続古文書解読入門」p103掲載の掟書を引用します。
 8条目の原文
「一、虚無僧之外 尺八吹者 於有之ハ 本寺より尺八之免出し可吹
   勿論 武士之外 下賤之者共江 一切為吹申間鋪 尤虚無僧
   可致吟味事」
(読み下し)
「一、虚無僧の外、尺八吹く者 これ有るにおいては 本寺より尺八の免(ゆるし)出し、吹くべし。勿論、武士の外(ほか)下賤の者どもへ、一切吹かせ申すまじく、尤(もっと)も、虚無僧、吟味致すべき事」
(現代訳)
「一つ、虚無僧ではない者で、尺八を吹きたい者があれば、虚無僧の本寺、関東では一月寺や鈴法寺の免許状を出してもらって吹きなさい。もちろん
武士身分の者に限るので、それ以外の武士から見て下賤の者たちに尺八を吹かせてはならない。しっかりと虚無僧はそれを見張って調べなさい。」
と権現様=徳川家康公が掟(おきて)として仰ったのだ。

 この許しは、いわゆる「本則」というもので、当然その免許状にはお金が要りました。また、表向き武士以外の者には免許状を出さないといっていますが、実際にはどんどん農・工・商にも免許状を出していました。もちろんそれが虚無僧寺=虚無僧たちの大きな生活費になっていました。
 こうして尺八という大きな音楽的可能性を持った楽器が虚無僧達の独占物となっていくのですが、その虚無僧達にとって尺八は表向きには楽器ではなくて「禅の修行の道具」なのでした。
 表向き禅の修行の道具でしたが、市井で三曲合奏を楽しむことも多かったらしく琴古流の稽古規定では次のように決められています。
 (塚本虚堂編『琴古手帳』p21より)

「一、琴三味線ニ合其外遊興ケ間敷吹申間敷事」
(読み)
「一、琴、三味線に合わせ、そのほか、遊興がましく吹き申すまじき事」
(現代訳) 
「一つ、琴や三味線に尺八を合わせて合奏したり、そのほか、修行ではなく遊びとして尺八を吹いてはいけない。」

 さて、裏でいくら頑張っても、表向き「本曲以外の曲、吹くことならぬ」と200年もいわれますと、他の楽器との合奏などは高度に発達しようもありませんでした。その善し悪しは別として、尺八はもっぱら本曲を洗練する方向に進みます。
 1800年を過ぎた頃の「池田一枝の琴古流楽譜」を見ましても、ほとんど今と同じ細かい微妙な技法で演奏したことがわかります。
 この「尺八を吹いていいのは武士たる虚無僧だけ」というめちゃくちゃな法律は、器楽合奏に於ける尺八の発達を阻害したのですが、反面、伴奏が100%要らない純粋な「独奏曲」を『本曲』として現在まで残したということも大いに評価すべきだと思います。
 
 今年、西暦2013年で個人的には35年間尺八を吹き続けてきたことになるのですが、未だに毎日「琴古流本曲」を吹いても飽きるということはなく、日々本曲を楽しんでいます。
 年頭に際し、今年も息の続く限り、毎日尺八修行に励みたいと思う次第です。


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【演奏会ご案内】尺八吹奏研究会 第33回演奏会
神崎憲・貴志清一尺八新春コンサート

日時 2013年1月12日(土)pm.1:30開場 2:00 開演
☆出演  尺八:神崎憲・貴志清一 
       箏 :菊紀美葵
☆演奏曲目(予定) 
1.呼竹受竹
2.春の海
3.夕暮の曲
4.鶴の巣籠
5.惜別の舞
6.鹿の遠音

☆場所 イロリ村プチホール
   〒530-0016 大阪市北区中崎1丁目4-15 Tel 06-6376-0593
☆交通 地下鉄谷町線「中崎町駅」1番出口を出て、北野病院方向へ進み、
JR環状線の高架手前(セブンイレブンの角)を高架に沿って右に入りすぐ
☆入場料:1000円
☆チケット申込方法
 下記演奏者に直接お申し込み下さい。 折り返しチケットを送付させていただきます。
 〒550-0015 大阪市西区南堀江4-2-9-704 神崎憲   Tel 06-6534-6303