会報 No.24

尺八と音楽テクノロジー(音楽工学) 貴志 清一

 尺八が鳴るということに関してはもっと客観的に考えてみてはどうでしょう か。

 風邪の強い日、電線がピューと鳴っているのと尺八がホーと鳴っているのと は全く同じ現象だということです。音が出るだけなら何も神秘的なことではない のです。 電線が歌口のエッジです。息が歌口のエッジに当たっていろんな振動 数のおとの元が出ます。その中で、たまたま尺八の気柱と同じ振動数の音が空気 柱と共鳴して耳に聞こえるほどの音になるのです。

 では尺八の何が神秘的なのでしょうか。私が思うには、人間が尺八に対して 要求する心が知らず知らずの内にその人でしかでない音を形成していく・・・そ のことが神秘的なのです。

 また、自ら尺八を吹くことによって一つの生命体としての自分が心を動かさ れ、物理的振動に過ぎない尺八の音によってメッセージを受け取る・・・そのこ とが尊いのだと思います。 それは正に心の問題だと思います。自分の精神を高 いところに持っていくことが、結果として音楽的に高い表現が出きるということ です。

 最近のコンピュータを基礎とした音楽テクノロジーの発達は目を見張るもの があります。しかもそれが3、40万円という価格でパソコン+周辺機器+音楽 ソフトが出回っているのです。 私も仕事柄簡単なピアノ伴奏を弾いたりします 。その時その楽譜を同僚がキーボードから音符として画面にどんどん入力した後 鳴らしてくれたりしますと、本当に良くできていて「これ、ぼくが弾くよりはる かにうまいし、音楽的やなあ・・」と言ったりします。

ひと昔前のメトロノームにカチカチ合わしたようなつまらない演奏ではないの です。 その気になれば音楽的に”歌う”為に100分の何秒かをずらして入力 できます。何なら、ヴィヴラートを一音の中でも速さと、深さを変えて入力でき るのです。 わざわざ尺八の音の出にくさで悩まなくてもパソコンを前にしてい い音源さえあれば尺八らしい音も出ますし、何なら自分の吹いた音を信号として 覚えさせてデジタル式に加工して本曲をパソコンから演奏させることも可能なの です。

 しかし、ここで人間でしたら、こうつぶやいて下さい。

「それが、どうした。」

 テクノロジーが進んだからといって世の中から楽器がなくなるというわけで はありません。 むしろ、こういう時代だからこそ人間の活動とは何かが問われ 、機械がどれだけ限りなく近づいても何かが違う生身の人間の演奏の良さが、再 認識されるのだと思います。 だからといって安易に「人間が吹いて演奏してい るからいい。」ではいけないのです。どんな演奏をしているか、どれだけ感動的 な演奏をしているか、言い替えるとどれだけ確かな技術に支えられて高い精神で 演奏しているかが大切なのです。 私もまだまだその点未熟ですが、時に触れこ ういうことを考えて自戒の言葉としています。


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