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 尺八愛好家60歳からの試練=「バテ」の克服(「一二三鉢返」音源)
  口笛練習法、または、より継続可能な鉛筆くわえ法
                                                                    貴志清一
 今日は秋の尺八発表会。
 弟子には必ず単管、すなわ独り吹きで演奏させるうちの師匠。曲は入門して2年目に習った「一二三鉢返」。これなら時々吹くし、だいいち5年前にも舞台で吹いた経験がある。
 私は現在60歳。まだまだ若い連中には負けないつもりである。
 
 幕が上がり乙のツメリからロへ。少々出にくいので口を緩めて「ホ~~」と息の量で音量を出す。皆明けの「ハ」は出たけれど次の甲ツメリの音がかすれる。「そんなはずでは無い」と思ったが甲のロもかすれてしまう。
 少々不安になり、顔をしかめて何とか息の出口を確保する。音はしっかり出るのだが、どうも力が入りすぎている。
 次から鉢返しの部分だ。三のウを聴かせてヒ、ヒを押す。音がかすれる!慌てて口を絞り、思いっきり息を出す。それでも音の末尾がプスンと途切れてしまった。今度はヒを聴かせて明ヒの音。
「甲音が鳴らない!」焦る。いくら口を締めても出るのは乙音ばかり。
次の最高音の二四五ハの時、唇がベローンという感覚で全く音のコントロールが効かない。音は出なくて出るのは冷や汗ばかり。
 やっと乙音の所まできた。しかし既に音のコントロールは失われ唇が他人の物の様な感じ。
 最後の二斗は出せたが次の最後の乙ロは全く音にならなかった。
 15年間の練習は何だったのか。恥ずかしさと悔しさで顔を真っ赤にして舞台の袖へ引き揚げた。
 
 以上はA氏の、ある演奏会での話ですが、これに似た経験をされたことはありませんか。30,40歳代では考えられないことなのですが、人生 50年を過ぎ60才前後になりますと老化による不調が尺八吹きを襲います。「吹き続けると口の周りが言うことを聞かなくなり音が出なくなる、もしくは出に くくなる」というスランプです。
 これば70才前後になりますと「尺八を吹くのを、きっぱり辞めようか」という切実な問題になります。80才前後になりますと歯の問題、息の問題、そしてこの「口」の問題が一度に襲ってきて、
「尺八を辞めました。手持ちの竹を安く譲ります。」と少ない竹友に連絡したりします。
 
 これはいわゆる「(尺八を吹いていると)すぐバテる」という現象です。
 「バテる←はてる(果てる)←疲れ果てる」ということで、西洋楽器、特にトランペットやサックスには年齢に関係なく現れる現象です。
 
 若い方にとっては、
「え~~!尺八でバテる? 唇を空気が通るだけの楽器やのに。トランペットみたいにマウスピースを当てるのでもなく、またサックスのように下歯でリードの間にある唇を噛むのでもないのに!尺八を吹いてバテるなんて、考えられへん」と思うかも知れません。
 しかし、実際に老化を実感している50才後半以降の尺八吹きにとっては切実な問題なのです。
 
 さて、実際にこういう「バテる」スランプ状態に陥ったとき、どうしますか。
 選択肢は2つあり、
①尺八をこの機会にすっぱり辞める。
②加齢による「バテ」のスランプを受け入れて対策を講じる。
 
 好きで長年尺八を吹いてきた奏者にとって①は耐えがたいほど辛いことでしょう。そういう方にとって②しか選択肢は残されていません。
 ただし、「バテ」によるスランプを受け入れない方もいるでしょう。
そういう方は"根性論"で、
「口がバテてひん曲がってきても力を入れて吹き続ける。音が出なければ息だけでも尺八に吹き付ける。それを3時間でも4時間でも続ける。そのうち光明が見えてくるはずだ。」という練習に陥りがちです。
 しかし、良い音が出ない状態で尺八を吹き続けると"良い音が出ないための練習"すなわち、"悪い音を獲得する練習"になってしまいます。
 また、息だけを尺八に吹き付けるのは"尺八を吹いたとき、音が出ない練習"をしていることになります。
 本人は必死なのでしょうが、尺八の神様が空から見ていますと、
「何で人生の貴重な時間を費やして"下手になる練習"をするのか?」と不思議がると思います。
 
 さて、②の加齢による「バテ」のスランプを受け入れる心構えはできましたでしょうか。
 ここでは私が実際に試した方法を述べます。これ以外にも良い方法があるかも知れませんが、一つの対策として参考にして下さい。
 
 尺八の「バテ」を克服するには、尺八の練習時間以外で口の周りの口輪筋を鍛える必要があります。
 その鍛える方法は拙著『尺八吹奏法Ⅱ』で述べています「口笛練習法」です。
 この方法は付随的に「唇の赤い部分に力をいれない感覚」の獲得にもなりますし、「バテ」を防ぐ口輪筋の鍛錬にもなります。
 ただし、練習直前や練習中にこれをすると尺八を吹くアンブシュア(口の形)に余り良くないので、練習時間以外の時にしてください。
 時間は各自の感覚ですが、決して疲れすぎるまでは口笛を吹かないことが原則です。
 これは楽器奏者以外の普通の方々でも顔の線を老化から守るということで実行されているものです。実際、口輪筋鍛錬グッズがあるほどです。たとえば、
 
 ただ家庭生活の場、ましてや職場で「口笛」を吹いていれば、これまた問題になります。口笛練習法は「音」がでますので場所・時間の制約が大きく、勢いだんだんしなくなる傾向があります。
 そこで、もっと実行しやすく長続きする方法である「鉛筆くわえ法」を試してみましょう。
 〔鉛筆くわえ法〕
・鉛筆を歯を使わずに、唇だけで挟みます。できるだけ水平になるようにします。
・これを10秒ほどして、休みます。また10秒ほど挟みます。
・余力のある人は唇だけで挟みながら鉛筆を上下させましょう。    ・これを1日の内、尺八練習時間を避けて数回~(各自の能力で)繰りかえしましょう。
(決して長時間はしないように。口輪筋が堅くなりすぎます。)              
 たったこれだけのことです。鉛筆をくわえるだけです。
音もしませんし、人が見ていなければ何時でも何処でも訓練できます。
 
 どうか「バテ」によるスランプにお悩みの尺八奏者のみなさん。
この簡単な鉛筆くわえ法でスランプを克服して下さい。
 
 最後に、不調の時ですが62才で吹奏した「一二三鉢返」の演奏をお聴きいただければ幸いです。
 (音源「一二三鉢返し」↓)
http://www.jm3.org/bmbnt/music/336-hihumihachikaeshi
 
 また、尺八ではありませんが、トランペットなどの口輪筋鍛錬法の参考HPを挙げておきます。