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      一節切特集〜もうひとつの「無常曲」,『糸竹古今集(1818年)』より



 実際の演奏を通して一節切普及にご尽力なされています藤由越山師の演奏をはじめにお聴き下さい。
 https://www.youtube.com/watch?v=3KdFWS_s36c
 この「無常曲(むじょうのきょく)」は1818年に出版された『糸竹古今集』に載っています。
 (国会図書館のデジタルライブラリー)
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2539492

 糸竹古今集というのは江戸後期には既に衰退していた一節切を復古しようと努力した神谷潤亭の本です。
 「糸竹古今集」という名前ですが、この本の中には「糸」を表す琴三味線はでてきません。ですから「竹古今集」と呼ぶべきなのですが、おそらく1664年版行の『糸竹初心集』にちなんだものなのでしょう。
 また、内容から見ますと琴・三味線に一節切を合わすための楽譜がたくさん載っていますからやはり「糸竹」なのでしょう。
 
 さて、この本の題名中の「古今」とは何なのでしょう。
 1800年ごろには一節切を製管する人もいなくなり、糸竹古今集の著者・神谷潤亭が『一節切 竹作伝書』を書かなければならないほど衰微していたのが一節切だということを、まず念頭に置きましょう。
 すると、一節切の復興には単に室町時代以降の「手」とよばれる独奏曲や元禄までの律音階による琴・三味線との合奏曲の良さをいくら叫んでも無駄だったのでしょう。その「古」さゆえに衰微してきたのですから。
 それではということで、「今」流行している音楽に対応できる新機軸を打ち出したのがこの糸竹古今集の「今」の部分です。
 その内容を探るために一旦お蔵入りしていた古管2本を取り出して息を通し、改めて「糸竹古今集」を眺めてみました。
 だんだんこの本の後半「今」は、陰旋法化した、いわゆる「都節音階」に対応しようとした努力の結果だということが分かってきました。
 指遣いはそのままで、出す音を若干変えているのです。
 そして、「古」い律音階の運指表と混乱しないように運指名も「今」風に虚無僧尺八のロツレを借用したりして変化させているのです。
 現在でも演奏する「六段」がこの糸竹古今集に掲載されていますので、この1800年の時点から見ても100年は経っている陰旋法によるこの曲を使って運指と出る音の対応を推定してみました。
 このくわしい考証は、次の資料にあります。

「糸竹古今集、影印・翻刻・解説」(DVD琴・小竹による復元合奏「六段」付)


 この資料の中で考察した「古」と「今」の音のならびを見ます。
 古:(律音階) フホウエタチヒ=A B D E F♯A B
 今:(都節音階)ロツレリエチヒ=A C D E♭G A B♭

実際の復元演奏ということで先日の私の演奏会で吹いたのですが、自然に無理なく陰旋法の現行の「六段」の琴に合わせることができました。この陰旋法に適応した運指法こそが神谷潤亭の考える「今」だということを実感したわけです。



 従来の説では「半音の出ない一節切は近世の陰旋法化についていけなかったので滅びた」となっていますが、このことは再考の余地がありそうです。
 さて、糸竹古今集の「今」の部に上記見だしの「無常曲(むじょうのきょく)」が載っています。江戸前期の「短笛秘伝譜」や「洞簫曲」にない、新しい曲です。「今」のところにある曲ですから運指法も「今」を使ったと思われます。
 試しにこの運指で吹いてみますと、なかなか何か新しい感じがして面白いものです。
 当時の復元にどのくらい近いかは今後の研究者の判断にまかせますが、どうか"もうひとつの「無常曲」"をお聴き下さい。

(音源ファイル「無常曲」)

http://www.jm3.org/bmbnt/music/379-muzyo.MP3