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 第2,3回 月翁文献を読む会報告
 「尺八の大・中・小=一尺八寸、六寸、三寸?」
 ~月翁文献を読む会は途中参加歓迎~
 
 2018.5.25(火),6.29(金)と第2,3回目の月翁文献を読む会をもちました。この2回で解明できたことをまとめて報告いたします。

 1772年といえば田沼意次(おきつぐ)が老中に就任していよいよ権力を振るう時代になります。
人心もそれに靡き世の中の空気が「いいかげん」になり仕事も「なあなあ」に無責任になった時代といわれます。
正確な所は後世のわれわれには少々分からないのですが、年代暗記法としては、
"田沼意次、老中になり、1772(人 なあ なあ に)なる!"と教えてもらいました。

 その1772年ですが、2代目黒沢幸八が宇土藩主月翁に免許皆伝の巻物を出しています。
(『江戸時代における尺八愛好者の記録』p19、以下ページ数のみ)
「尺八曲目 ヶ条之書」がそれです。

 前半が古伝来の手続き、いわゆる本曲で、18曲あります。
この18曲は琴古流の私が習った曲そのままです。
ただし、演奏法としては、もしかするとかなり違っていたかも知れません。

 後半が18条の伝で、どんなことを伝えたかを箇条書きにしています。ただし、その内容や解説は口伝ですから省かれています。

 これは塚本虚堂編『琴古手帳(全)』p8「当流尺八一道の事 十八条口伝」と同じなのですが、
これらのヶ条書きからは具体的にどういう内容かは不明な点が多々ありました。
しかし月翁文献では黒沢琴古に直接伝授された内容を(付け紙)として書き入れているのです。

 それがp24の「尺八曲目・ヶ条の書 写し 一巻 月翁書、紙片」です。
この資料によって1770年頃・江戸後期にさしかかる頃の具体的な尺八の姿が推測できます。
今、その付け紙の内容も参考にして口伝18ヶ条を見ていきましょう。付け紙によって判明した内容を〈解説〉として付しています。

➀身構え、吹き方、指配りようの事
〈解説〉左手を上に、右手を下にして構えるとあります。

②息気(そっき)の吹嘘(すいきょ)、音のしまり、ゆるみ、突き色、引き色、突きなやし、ゆり、振り込み、品々ある事
〈解説〉吹嘘=甲・呂と説明されています。則ちしっかり吹くと甲の音が出、そっと(嘘)吹くと呂(乙)の音が出るということです。
琴の影響を受けたと思われる突色や引色などは付け紙には記されていません。
これらの技法は1800年頃の「池田一枝譜」にも付けられているのですが、実際にどのように吹かれたかは私のような琴古流奏者には非常に興味のあるところです。

③五つの穴の開閉、指づかい、摺り、打ち、あしらい、品々ある事
〈解説〉付け紙には、「指の使い方で上手な演奏と下手な演奏に分かれる」と述べられています。これはそのまま現代にも当てはまることです。

④手続き真行草の事
〈解説〉付け紙によると「荒手」という、恐らく草書の筆運びのように吹くことを「草」といいます。

⑤三調子、五調子、十二調子、変化、品々ある事
〈解説〉三調子とは本調子、二上り、三下りを表すとあります。
これは三味線の調弦から来ていると思われるのですが、陰旋法でレ(G)を主音とするのが本調子、移調してロ(D)が主音である二上がり、り(C)が主音の三下がりとしています。
この時代に琴古流本曲が陰旋法を取り入れたといわれていますが、それを上下完全五度移調して吹いていた、すなわち音階理論がかなりしっかりしていたことを表します。
従来、江戸時代の本曲は何となく音程・音階が「でたらめ」のように思われていたようですが、それは間違いではないかという問題提起になると思います。
このあたりは、若手の尺八研究家に解明をお願いしたいと思います。


⑥曲ごとにその姿、位、ある事
〈解説〉恋慕の曲のフレーズが他の曲にあるからといって、同じように吹くのではなく、同じ音型であっても曲ごとに違う雰囲気を出さなければならないということでしょう。
しかし、それにしても琴古流本曲はどれも似すぎています。地無し管で吹けばそれなりに各曲の味わいが出るのでは?と考え「地無し管による琴古流本曲集」CDを作成しましたが、お求めいただいた方からの感想に「全部の曲が同じように聞こえて退屈です」とありました。このご意見には少なからずショックを受けました。
むら息のある「鹿の遠音」、コロや玉音のある「巣鶴鈴慕」、り(C)を主音にした陰旋法の美しい「三谷菅垣」、拍節的な「下り葉の曲」等、選曲に苦労して作ったCDだったからです。
しかし、琴古流の奏者でない方々の率直な意見だと受け止めました。
 
⑦ほど(程)ひょうし(拍子)、間合いの事
〈解説〉付け紙によると全ての曲は丁度良い拍子があり、また間合いも遅い、早いがあるので、自分勝手に吹いてはいけない。しっかり修練すべきであるとあります。

⑧長しらべを吹く事
〈解説〉「長しらべ」という音作りの曲を初代琴古が工夫して作ったとあります。この「長しらべ」を吹きながら竹と息とが合い和するようになるべきだで、そうでなければどんなに曲数を吹いても上手に吹けないと言っています。これは正しく時代を超えての真実でしょう。
竹と息とが和す、私は「鳴るポイントを探す」という表現をしています。その理論を掲載しているのがPDFfile「尺八吹奏法Ⅱ」で、そのための練習曲が「毎日のウォーミングアップ」の章です。


⑨留め音(ね)の事
〈解説〉付け紙によると、これは曲の最後の留めるフレーズで、三浦琴童譜では「二ばかりのレーローー」です。しかし月翁のメモでは「堺獅子(栄獅子)」と「伊豆鈴慕」では違うとあります。それで琴童譜を改めて見直しますと、この2曲だけ「乙レーー」で終わっています。
ということは、1770年頃には琴古流の本曲がかなり現行のものと近い可能性があると推測されます。今後の研究課題だと思います。

⑩普化大禅師より伝来の三曲と称する事
〈解説〉付け紙によると、是は曲名ではなく3つの本曲分類のようです。1つは恋慕、2つめは虚空、3つめは虚霊とあります。○○恋慕や○○虚空、○○虚霊などです。

⑪三虚霊という事
〈解説〉付け紙によると、○○虚霊というグループに3曲があり、「真の虚霊」「琴三虚霊」「下野虚霊」がそれです。私など琴古流を40年近くやっていますと「打替虚霊」が抜けていると分かるのですが、これも月翁が「打替虚霊は真虚霊の替え手」であると説明しています。
あっ、そうか。替え手だから打替虚霊というのか・・・と変に納得です。

⑫賓主出会いの節 初めに吹く曲の事
〈解説〉今ではよく分からないのですが、尊い人物と出会ったときには「恋慕」と「虚空」を交互に吹くべし、と付け紙にあります。
「虚霊」は「嘘・礼」に通じるという洒落でもないと思うのですが。

⑬対管に吹く時、心得の事
〈解説〉付け紙によりますと、対管・二人で吹く時には上手な奏者は下手な奏者に合わしてあげて、下手な人が吹き損じないようにしてあげる可しとあります。

⑭曲によりて習いの吹き様あるの事

⑮虚無僧法式の事

⑯武門の嗜みという事
付けたり、恋慕の修行、付けたり並びに、鉢返しとて、吹き方これある事

⑰尺八竹は陰陽、三光、五行を象(かた)どり節数、穴数、名所(などころ)あること
〈解説〉尺八は法器なので、その部分部分に宗教的な意味合いを持たせるということです。たとえば歌口は「月」に当たり、管尻の穴は「太陽」に当たるという具合です。歌口を前から見ると三日月に見え、管尻の穴は太陽の円のようですので、これも変に納得です。

⑱尺八竹、大中小の定寸、並びに細工の仕方、定法あること
〈解説〉
 この江戸中期の時代、尺八には大・中・小がありました。
 特に大は「大竹」、小は「小竹」と1700年前後に出版された『三節切初心書』にあります。

(『三節切初心書』に関するリンク
 ↓
http://www.dental.gr.jp/bmbnt/bamboo51.htm
http://www.dental.gr.jp/bmbnt/bamboo52.htm

 『三節切初心書』は普化尺八の最初の入門書でその資料的価値は大きなものがあります。しかし、それには大竹は何尺何寸なのか、小竹はどのくらいの長さなのか全く書かれていません。
 当時の人には当たり前すぎて書いていないのですが、後世の人間が歴史研究をするときには、この「当時は当たり前すぎて記録していない」内容が一番困る事です。
 しかし、幸い月翁は付け紙の中で長さを記しています。
(付け紙)の原文翻刻は次の通りです。
「大管は一尺八寸 中管は一尺六寸 小管は一尺二寸 細工の仕方此処に略す 別段詳らかに口伝」

 そうなのです。大竹は今の標準管と同じ一尺八寸で中竹は一尺六寸
 そして今ではほとんど使われない一尺三寸が小竹です」
 ここで、小竹の翻刻字が「一尺二寸」となっていますが、三調子の項でもあったように、筒音(G、一尺八寸管では乙レ)が三下がりの調子ですので翻刻ミスか、月翁自身の書き間違い・聞き間違いか写真版では字が潰れていますので今後の課題にします。

 何れにしましても、Gが筒音の小竹もよく使われていた可能性があります。そして月翁文献p103の写真版「琴六段」が「レーツロ」という今の楽譜と同じですので、一尺三寸管を使えば琴も一の糸をDから一音下げたCで楽に合奏できます。
 読む会では、この一尺二寸か一尺三寸かで大いに議論が盛り上がりましたが、参加者のK.M氏が実際に真竹で両方作ってきてくれていました。チューナーとにらめっこしながら吹きますと、どう転んでも一尺二寸では筒音がG♯(乙チメリ)になり、やはりここは「子竹は一尺三寸管」だという結論になりました。しかし、確実なのは鮮明な写真画像を見るのが一番良いと思います。機会があれば月翁文献の実物を見てみたいものです。

 その他、月翁文献を読む会ではいろいろな意見がでました。7月も会合を持ちますのでご紹介する内容がありましたらHPに掲載したいと思います。

 以上が月翁文献を読む会の2,3回目の概要です。
 この会は途中参加、歓迎ですので、ご興味のある方はご参加下さい。
 
○名称 細川月翁文献を読む会(月1回、全8回)
○日時 第4回2018年7月10日(火)午後1:15~3:15
○場所 大阪府泉南市岡田3-16-16
    尺八吹奏研究会・稽古場
    南海本線岡田浦駅下車、徒歩3分
○会費 1,000円
○内容 『江戸時代における尺八愛好者の記録』を8回に亘って読み     進めていきます。
○お申し込み
   ハガキにて「細川月翁文献を読む会」参加希望の旨と連絡法を記載の上、〒590-0531泉南市岡田2-190-7
  尺八吹奏研究会 貴志清一宛、ご投函下さい。

『江戸時代における尺八愛好者の記録』(定価3,000円)
※入手は虚無僧研究会本部へ
〒162-0053 東京都新宿区原町3-82 法身寺内
(TEL)03-3202-4876 (FAX)03-3202-3272 (HP)