会報 No.41

紹介 義歯でも朗々と吹けるメディアンスペースについて 貴志 清一 


義歯のメディアンスペース法について

 はじめに この文は根本俊男著『すべての管楽器奏者へ』(音楽の友社)の内容の解説のようなものです。


 ですから直接この本を読み、それを尺八に当てはめればよいのですが、メディアンスペースと口腔前庭の関係は読みとりにくいのではないかと思いますので敢えて解説する訳です。

 なお、引用につきましては 根本氏のご許可を得ております。
 氏に対して文面ながら厚く御礼申し上げます。(貴志清一)

 まず、前歯の義歯(入れ歯)による調子の悪さはメディアンスペースによって驚異的に解消する可能性もあるということを知ってもらいたいのです。(本会員の梅原氏はスリットと呼んでいらっしゃいますが、同じものだと思います。)

 そして総入れ歯でも楽器は吹ける可能性がある−ということも知ってもらいたいのです。
 しかし、私自身は義歯は奥歯の10本(多い?)ですので尺八吹奏には大きな障害はありません。ですから自分で確かめるというわけにもいかず、どうしても間接的な解説になると思いますがその点お含み置きください。

義歯のメディアンスペース法について
 メディアンスペース法を一言でいいますと、
上の前歯に少し隙間(メディアンスペース)を開ければそれが口腔前庭に息が行きやすくなり、口腔前庭が有効に使えて大変尺八が吹きやすくなる方法です。

 最初に注意しておきますが、これは虫歯でも何でもない健康な歯には絶対しないでください。
 数年の内に歯自体がダメになってしまって取り返しのつかない自体になります。

それでは、『すべての管楽器奏者へ』のずばり、メディアンスペース法の載っているP.61の説明文を引用しましょう。 文中の(貴志)−は私の注釈です。

 5.メディアンスペース法

 これは私が考えたアイディアではありません。もう30年以上も前の話です。
 大学時代、学生オーケストラでホルンを吹いていた友人から、不思議な話を聞きました。
「ハーモニカを吹いた後でたばこを吸うと、とても甘い」
「門歯の間をヤスリで削ってラッパを吹くと良く鳴るらしい」
 この二つの話でした。いわれるままに吸ったたばこは、私には少しも甘くはありませんでしたが、後者の門歯の隙間の話は、かつてユーフォニウムを吹き、歯科医学を志す学生にとってわずかな興味として、今日まで頭の片隅に残っていました。
 ところが何の因果か、私が管楽器奏者の歯科治療を始めた当初から、この問題が復活したのです。”前歯の隣接面に小さな隙間を作ると、楽にしかも正確に音が出せるらしい‥‥‥。”外国の著名な奏者の中には、実際に自分で隙間を作って吹いている人が幾人もいるというのです。いや外人ばかりではなく、日本の有名な奏者の中にもいたのです。
 彼らは、先人から言われるままに、小さな金ヤスリやサンドペーパーを歯の間にはさみ、根気よく擦って隙間を作ったのだそうです。当然のことながら、この隙間作りの依頼は私の所にもきたのです。現在日本で活躍しているトップ・プレーヤーの幾人かは、私の作った隙間で吹いています。
 またある金管奏者の言によれば、その隙間を埋めて吹いたところ、さっぱり調子が出ず、再び元のように隙間を開けて吹いているそうです。私はこの隙間の奏者(?)に、どうして隙間が有効なのか、直接聞いてみましたが、その裏付けとなるものはなく、ただ開けることが確実によいということのみを強調していました。
 その後、多くの奏者に、この隙間のことを聞いてみました。しかし、誰に聞いても、いったい何故に前歯に隙間を作ると音が出しやすいのか、これを理論的に解明した人は誰一人としていないというのです。こうなると、ますます私の興味をそそります。学生時代のかすかな記憶が、今、現実の課題となって私に問いかけてきたのです。
さて、人工的に作った前歯の隙間、これには呼び名などついていません。そこで、私はこれを「正中線の隙間」の意味で「メディアンスペース」と命名しました。

(貴志)確かに、私自身歯茎の付け根と2本の門歯の間にほんのわずかな楕円の隙間が開いています。紅白饅頭など食べた後、歯を磨かないとここが詰まって(それくらい小さな小さな穴)尺八の調子のでないときがあります。ですから、おそらく以下の引用のごとく口腔前庭を使いやすくするには、このメディアンスペース法は有効だとわかります。

p.62より
(1)不思議な現象
 私は、この問題を探るために、2,3の実験を行いましたが、その中から解明にもっとも適した事例を披露しましょう。
 みなさんには耳慣れないかも知れませんが、「継続歯」(歯科治療の名称で、差し歯のこと)を、あるプロのトランペット奏者に作ったときのことです。この治療は主に前歯で、かなりの深い虫歯に適応され、虫歯に侵された見える部分の歯間を削り取り、歯根つまり歯の根っこを利用し、神経を取り除いたその穴を拡大して金属の支柱を入れ、その頭の部分、つまり歯冠部に人工的な歯を入れる方法です。その際、完成までの前歯のない数日を「テック」と呼ぶ仮の歯(形は普通の歯と同じ)で補うのですが、そのテックのままで彼に楽器を吹いてもらったのです。治療中、長い間口を開いていたために起きた口輪筋の変化とテックによる少々変わった口元では、通常の吹奏の再現は無理でしたが、その後で行った一連の実験は、彼の協力があって成功したのです。
 さてみなさん、ここで大変重要なことは、このメディアンスペースのことを、この奏者には全く知らせていないということなのです。
 しばらくして、私は彼の前歯のテックに約3分の1ミリの隙間を刻み、説明抜きで再び吹いてもらい、彼の反応に驚きました。
「以前の自分の歯より、ずっと楽に音が出せます。」これが何か当惑したような彼の第一声でした。私はここで初めて彼の了解を得て、この隙間の幅や、長さについて、2,3の実験を行いました。
@先端は埋めて中間を開ける。
A歯茎の線まで開けてしまう。
B先端から歯冠の2分の3の部位まで空ける。
 この三つの実験の結果、Bが吹奏にもっともっとも適していることを突き止めました。

(貴志)これはトランペットの事例ですが、尺八ではどうなるのでしょうか。興味のあるところです。
p.63 そして数日後、完成し装着した彼の継続歯にももちろん奏者の希望によりメディアンスペースが付けられました。

p.64(2)理論的解明
 ここで、我々が実際に楽器を吹き、唇が振動して楽器が鳴り出すまでの口の中の行程と環境を、順を追って整理してみましょう。
 横隔膜の運動により肺から気道を経て口の中に送られた空気は「図27」右端の示すように、「固有口腔」へ送り込まれ、次に狭い歯列の間を通り抜けて、「口腔前庭」へと押し出され、リムの中で唇が振動し音の発生となります。(金管楽器の場合)

(貴志)人によって、口腔前庭へ押し出される空気の量が違うし、尺八の初心者はほとんど固有口腔から直接歌口へ息を当ててしまうので、音のコントロールも効かないし、唇の裏をなぞるように息が流れないので整流作用もなく艶のない音になってしまう。

本文続き・・ところが、この歯並びの個々の異常や特性によって、口腔前庭へ伝わる瞬時の空気圧が左右で異なり、不自然な唇の振動から、ミストーンの誘発にもつながり、音の立ち上がりも不明瞭になりがちです。
 誰が思いついたのか、ここで考えられたのが、このメディアンスペースです。
 これによって固有口腔の空気圧が、そのままダイレクトに口腔前庭を経てマウスピースの中心部めがけて送り出されるのですから、口腔前庭及び唇の振動にはほとんど無理なく音が作り出されるわけです。

(健康な歯にメディアンスペースが施された場合の危険性)
 さてわたくしは、この前歯の隙間の効用について書きましたが、これが天然の(人間の健康な歯)に施された場合の危険性についてもふれておきたいと思います。
 それは、その前歯を削ることにより、エナメル質はもちろん象牙質の一部が露出されることも考えられ、この隙間が食塊(食べカス)のたまり場となって虫歯の原因につながることです。また、隙間のあるために常時清潔を保つことが困難であるという理由から、前歯の治療を行う際、たとえば、虫歯の充填、継続歯他に限って奏者の希望があれば施します。
 すなわち、私は、健康な歯に施すことは一切お断りしているのです。しかしいずれにせよ、これを最初に考案した昔の奏者(?)に私は少なからず敬意を表します。

(貴志)
 本文にもあるとおり、健康な歯は絶対削らないでください。
 また前歯が義歯の方やお年を召された総入れ歯の方で、「どうも義歯にしてから尺八の調子が悪い」とお感じの方は、一度このメディアンスペース法を試されてはいかがでしょうか。
 『すべての管楽器奏者へ』の抜粋、またはこの冊子を今かかっている歯科医師の先生に見せて、理解していただいてメディアンスペース法を実施されてはいかがでしょうか。
 だだし、根本氏はラッパなどの金管楽器奏者を中心に書いていますので、尺八でも同じなのかはわかりません。事後の経過を貴志までお聞かせいただければ幸いです。


会報61号の「悩みーその1」に関して、ご参考までに私の場合をご紹介します。
 
 三曲合奏などではピッチずれは若干で、20〜30セント、4分の1音以内だと思いますが、これは投稿者と同様に可変速度のテープデッキ(私はソニーTCーWE805S+−30l)で合わせております。半音が約6lですから1〜2%の調整はかえって難しく、もっと可変率の小さい機種の方がよいかも知れません。
 またあまり大幅に変えますとテンポがおかしくなりますのでその場合はBOSS製のマルチエフェクター「SEー70」の「ピッチシフター」という機能を使って音程を合わせております。同種のものがソニーやヤマハからもでています。


 古典などでは様々な寸法の尺八が使われていますが、そのまねごとをしたい場合、たとえば一尺七寸の曲を六寸とか八寸に、二尺四寸の曲を一尺八寸で、といった場合に利用できます。これですとテンポは変えずに音程だけ上下できます。カラオケ機のキーコンと同類ですがこの機種では上下1〜2オクターブ、+−50セントの微調整も可能です。テンポは変えられません。
 これも大幅にシフトしますと音の自然感は損なわれます。歌謡曲のCDカラオケの音程変換もできますが、上は2音、下は3音程度までならあまり不自然ではありませんがそれ以上では気になります。
 もしご希望でしたら、音程調整のサンプルをご提供できるようテープ録音を作っても良いと考えています。

 ついでに「悩みーその2」についてです。
 私は全くの我流派なので参考にはなりませんが、地唄でも何でも当初は譜面をなぞって練習しますが、曲になれてきますと、出来るだけ暗譜を心がけて、その上で譜面にはこだわらず、変え指も盛んに使って、流派を問わずプロ演奏の良いところも真似ながら(運指は不可能)気分良く楽に吹けて、快く聞ければそれが最高と心得、稽古しています。(プロ演奏でも同流派・同一曲なのに一つとして全く同じ運指スタイルのものはありません。 もちろん基本が完全に出来てからそこに至っているのだと思いますが)
 尺八同士の合奏の場はまた別で、やはりセオリー重視ということになるのだろうと思います。
 
●大変貴重な参考意見をいただきまして有り難うございます。ピッチが変えられるいろんな機械があるということを知って大変勉強になりました。
 知っている人には何でもないことでも、それを知らないことで大変無駄なことをしなければならないということの良い例ですね。重ねて御礼申し上げます。(貴志)


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