会報 No.49

恐怖の演奏会


 「いまだに人前で演奏するときに、全く音が出ないのではないかという恐怖感が無くならない」について 貴志清一


 夏場だから怖い話でもないのですが・・・・・・・・・
 もう15年くらい前になります。尺八を5年ほど吹いていたのですが、なにぶん練習も十分にしないので音を出すのでも大変という状態でした。
 その頃大阪のある邦楽合奏団に入れてもらっていたのですが、演奏会をすることになり単管で吹く機会がやってきました。

 それまで下手なりに長い間フルートを吹いていましたので「演奏会で吹くのは尺八もフルートも同じだ」という誠に傲慢な気持ちを抱いていました。
 曲目は「南部牛追い唄による幻想曲」という難しい曲です。
 何とかかんとかやっと吹ける程度なのにこの曲をえらびました。
 今にして思えばやはり人前で賞賛を浴びたい気持ちがあり、それも自分の実力を自覚していないだけに他人から見れば”戯画のような光景だったでしょう。
 案の定当日、箏の方の演奏は良かったのに「南部牛追い唄」の尺八はスカスカとほとんど音が鳴らなかったのです。吹いているとき音が鳴らないものですから焦って力み、よけいに音が鳴ら無くなりました。そのならない状態で最後までいきました。
 もう全身汗びっしょり、恥ずかしさと情けなさで泣きたいくらいでした。
 「自分の実力を全く知らないことは、こんなにも恥ずかしいことなのか」ということを思い知らされました。

 それ以後は練習もしっかりするようになりましたが、演奏会となるとその時の恐怖がよみがえってきてどうしょうもなく不安になるのです。
 そしてその気持ちは一つも薄れません。おそらくその時の恐怖が心に焼き付いているのでしょう。
 早くその演奏会の恐怖心が無くなればいいのにといつも思っております。
 今でもその時の会場、椅子の色、その時いた人や交わした会話まで鮮明に思い出せます。

 しかし考えようによっては、その時の失敗があったから尺八の吹奏に真剣に取り組むようになったのかも知れません。そういう意味では良い経験でした。
 それでもこの悪夢のような演奏会は早く忘れたいものです。
私のつたない体験談が会員の皆様にとって何かのご参考になれば幸いです。
因みにその時私の下手な尺八に合わせて下さいました上手な箏の方も既に他界されました。今年'98年1月の小さな演奏会で追悼の気持ちも含め「南部牛追い唄による幻想曲」をお箏との二重奏で演奏させていただきました。本当に残念なことをいたしました。


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