会報 No.5

論説 古典本曲「山谷菅垣」の由来について 貴志清一

 琴古流古典本曲の中に「山谷菅垣」という曲があります。これは基本の調が
リ調陰音階で出来ています。 不思議なことに、この曲は全く一孔を使いませ
ん。もちろんウ(As)のかざしの為に少し一孔をかざすときもありますが。
 しかも、甲のヒ(C)は使わずに、わざわざ音のうわずる甲のリを使ってお
ります。そうすれば一孔を塞がなくてもいいのですが。この曲は全く江戸時代
の陰音階で出来ていまして独特の哀感を帯びております。 この曲は私自身好
きなのでよく吹くのですが、この指使いについて長年疑問に思っておりました 。 
尺八界では資料の整理、関係論文の紹介などほとんどないので、もしや、どこ
かの本や雑誌にすでに述べているかも知れませんが、私の知る範囲ではこの問
題についての記事は知りません。 それで、二重になるかも知れませんが、
この一孔を使わないという問題を考えたいと思います。もしか、ご存知でした
らお教え下さい。 さて、この「山谷菅垣」の、一孔を全く使わないというこ
とのヒントがたまたま永井荷風の全集を見ておりましたときに目にしました。 
引用させていただきます。 「むかし、白井権八普化宗を破門さるるによって 、
一の音を吹く事能はず、やむなく、五孔を塞いで発するロの音をつかはずして 、
吹き試みし一曲と、俗説に言ひ伝ふる山谷菅垣を、おもむろに吹き始める。
立ち上る香のけぶりの末が、空中にひらひらと.....(後略)」              
荷風全集 巻一 P.313 岩波書店  

この白井権八は、確か白波五人男で歌舞伎の中のヒーローだったと思います。
実在の人物は本名、平井権八で、鈴が森の刑場で磔になったらしいです。 
この人物が、果たして虚無僧だったかどうか、また、この時代各地に尺八の指
南所があったので免許をもらった弟子だったかよく分かりません。 
ただ、俗説として言い伝えられ、それが荷風の明治時代まで伝承されていた事
に意義があるのだと思います。  一孔は尺八にとってたいへん大切もので、
乙ロという基本音です。いわば、いちばん尺八らしい音です。その音を出す事
を禁じられたというのですから、やはり、一孔を使わずに済むリ調で始めてお
ります。  
ここでこの曲が黒沢琴古にどう伝承されたかを見てみます。
「初代琴古は黒田美濃の守の家臣で、本名を幸八という。江戸両寺の吹合とし
て尺八に専心し、各地を行脚した。1728年、琴古19才の時、長崎正寿軒
にて一計子より古伝三曲を伝授されたのを始め、・・・後略」 
『尺八の種類と歴史』P11 月渓 恒子
「・・琴古は、一計子より「古伝三曲」及び「山谷菅垣」を伝承。・・後略」  
『黒沢琴古の追求』P19 横田 幸志 (いずれも、琴古流協会創立20
周年記念誌「20年のあゆみ」より) (この資料は、東京の 大石様よりの
ご恵送くださった資料です)

少なくとも1700年初期には形の一応整っていた曲だとわかります。
ただ、この曲に一孔を塞ぐロが出てこないから白井権八に託した俗説が出てき
たのかは定かではありません。  
歴史的な考証はあまり得意ではありませんので一応「山谷菅垣」についてはこ
の辺で終わります。 ただ、1700年を境にして陰音階が発達してくるので
すから、この曲はおそらくそれ以前の”律音階”で演奏されていたことが予想
されます。 律音階とは、半音の含まない音階で、ウがチ(A)の高さ、ヒが
ヒ(D)の高さです。
律音階から陰音階に変わったことは 小泉文夫 「日本伝統音楽の研究」参照


論説尺八界「アマチュアの条件」滝沢天山

「所詮アマチュアだから、趣味なんだから・・・・。 
もちろん尺八演奏では食べられませんから片手間でやっている理由ですが。   
でもいえる事は、尺八が好きであり奥が深く、たとえアマチュアでもプロみた い
にうまくなりたい。価値観の違いは人それぞれあると思うけど、やはりいい音 で
尺八を鳴らしたいと言うのは万人の願いだと思う。 教えている人がアマチュ ア
であり、よほど弟子がしっかりしていて師匠以上に勉強しないとなかなか向上 は
しない。地区の三曲演奏会他に、その他大勢で演奏するのが関の山。
いつまでたっても同じ事の繰り返し。 師匠にしても音色よりも音符、拍子ば っ
かり教える。これでは受験のための英語で英会話は出来ない人になってします 。
やはり師匠という人のレベルアップをしなくてはいけないと思う。そうしない と
いくら演奏会を開いても聞く人は邦楽関係者ばかりで、ひいては尺八人口の底 辺
は増えない。 全音、半音、乙・甲音にしてもちょっとした工夫でだいぶ変わ っ
てくるのではないか。音符を追うより音に対してもっともっと関心を持って研 究
していけばいくらアマチュアと言えども邦楽が楽しくなるような演奏が出来る の
では・・・。 特に都山流にない玉音(束音)、ムラ息、他、できるようにな れ
ばうれしいしいろいろな曲に巡り会えて演奏範囲も表現も広がってくると思い ま
す。 最後に、支離滅裂な事ばかり書きましたが、是非会員みなさま方のご意 見・
ご感想をお聞かせください。


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尺八奏法に関して、全国の尺八愛好家の皆様の意見交流の場ともしてゆきたい と思います。
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