会報 No.54  (元版NO.94号  )

 尺八吹奏の技法について

尺八吹奏研究会 会員

 

 会報76号(本研究会印行)にT氏よりたいへん結構な吹き替えの手を発表していただき有り難うございました。ハローについてもいろいろご研究の様子で重要な問題だと思います。二四五のハローは都山や上田では正式の手法としては使ってないようですが、何流によらずたいへんよい手法と思います。尺八の諸手法は流派にこだわらず全てを知り適宜使いこなすのが最もよいと思います。

 最近、私の知人で数年間琴古流をならい転勤となってその先で故有って都山流の先生に入門しました。長年の癖で吹き始めのハローを二四五のハローと吹いたとたん「それは琴古の手です。都山流は三四明けのハローです。」と直され、しばらく吹く内レレレレが出てきてこれを四孔で切ったところ三で切れと直されたということです。

 このような例はT氏の示されたメロディー上の問題や個々の運指の上でも琴古・都山を比較すれば多数出てきます。自分の属する流派のみの手法で曲を吹いている間は疑問もわいてきませんが視野を広げ、より向上を目指せばいくらでも出てきます。

 こういう問題をどうしたらよいかを私なりに述べさせて頂きたいと思います。忌憚無いご批判とご指導をお願いいたします。

 

 まず同一譜に対しいろいろの吹き方をして比較検討してみることです。

 上の例で申しますと地歌の箏・三絃がローと出るとき二四五のハローの方がすんなりと瞬間的に入りやすく雑音になりません。民謡等で「はあー」と歌に合わす時は三四のハ(都山)がよいと思います。吹き比べた上でよい方を取ればいいと思います。

 レの連音でも強く切りたいときは三でスムーズに、或いは軽妙に切るときは四の方がうまく切れることは吹いてみるとすぐにわかります。三絃が レレ等で最初のレはばち弾きしあとのレレは爪弾きする事がありますが、この時は三または四で押し、あとのレレは一打ちで軽く切る手もあると思います。

 このように○流は四で、△流は三で切るべしと規定するのではなく曲により或いは場所によって使い分けをするのが本当に曲を吹くことになるのではないでしょうか。

 とにかく、魚は焼いて食べることしか知らぬでは最高の味を味わうことは不可能です。刺身で、鍋で食べておいしいということもあるのです。流派に規定された手法しか使わないでは料理で言えば、折角の味を逃してしまうことと同じだと思います。

 これを知るには少なくとも都山系・琴古系、その他の流の譜面を読めるよう勉強することが必要です。そのためにはまず諸流派の入門書を持ち、各々の音符一覧表を見て同律の音でもいろいろな孔の明け方、連音の切り方があることを知ることです。

 ご承知の方にはたいへん失礼ですが、理解して頂く為2、3の例を記します。

○都山流 タ 二四五明け   連音 三 (速く打つには練習を要す)

 琴古流 三五のハ(三五明け)連音 二 (極めて簡単)

○レの大甲(会報83号参照)

 竹によりなかなか出にくいものもある。(特に短管に多い)

 四孔を紙一枚入る程度にすかすと簡単に出る竹もある。

 (但し、明けすぎるとチのメリとなり、メリと指の調整が必要です)

○都山流 ヒ 一二孔閉  ヒが低い場合一または二の開閉により律の調整可

             一孔明けで音色も明るくなる

 琴古流 イ 一孔閉  甲ロの代用として使えば音色が柔らかい

○琴古流 ウ 都山流にはないがチメリの替わりに使えば音色にさびが出る。

 

上記は2、3の例です。同律の音でも明け方を替えれば音が出やすくなったり音色が変わったり、連音が出やすくなったりしてたいへん面白いです。これを異孔同音と名付ていろいろ工夫しております。

 

 T氏が示された旋律上の吹き替えも都山または上田の譜と琴古の譜を比較対照されれば、吹き替えの旋律もうまく直すことが出来ます。手のこみ方が多すぎるとか旋律がくどいと感じたときには修正するのに有効です。この際三絃の手を参考にするのも役に立ちます。バチ弾きの音、爪弾きの音、すり上げ或いは歌の抑揚等です。

 またT氏の申される「各音符に運指上の孔番号を記入する」のは理想的でしょうが、今のところ一般の譜にはおそらく記入は無理でしょう。講習会用、または特殊な指導用譜としては見たことはありますが、自分で最もよい手を見つけるしか方法はないと思います。

 但し古典本曲は手法が完成していて一音一音がすべて厳密にその味を出すよう運指が仕組まれているものが多いです。(例えばツでも二押し、あるいは三押しで吹くよう指定があるものがあります。)

 このように古典本曲では示された通りの手を使うとやはりよい表現ができると自分でも感じております。

 結論としては自分の流派のみにとらわれないこと、広く他流または名士の手法を学び全ての技能を身につけ適宜に曲により使い分けしてこそ個性を生かした演奏ができると思います。

 以上、本文に対してご意見等がございましたら当尺八吹奏研究会を通してご教示を賜りたいと存じます。

 

(上記の論説に対する意見 本会会員F氏より)

 「尺八吹奏の技法について」を拝見しました。

 “知人が琴古流から都山流の先生に入門、いろいろと直された”とのことですが、これは都山流の基本を教えているものと思います。

 先ず、その流派に入門したならば、その流派の基本を身につけることが一番大切なことだと思います。そうでなければ記事の中の“知人”は都山流に何のため転門したのか、目的が分かりません。「尺八吹奏の技法について」にもありましたが、尺八吹奏にはいろんな手法があります。しかしこれらは基本をしっかり身につけてから使用すべきと思います。都山流に入られたなら都山流奏法をしっかり身につけるのが先決かと思います。

 以前私の所にも琴古流から転門してこられた方があり、上記のことを説明し琴古流の奏法は一応横に置いて都山流の基本奏法をしっかり身につけて欲しい(琴古流の奏法を使って悪いというのではない)と言うことで稽古をしたことがありました。