会報 No.57

尺八を始めてみようという方へ
貴志清一
先日本会会員の方より以下のようなお便りをいただきました。
 
「(前略)…尺八を初めて2年になります。
 さて、初めてみると、さてどこに師匠がいるのやら、なに流に入門するのやらわからないので取りあえずビデオやテープをかって独習を試みています。
 教則本として2,3をあたってみました。ピアノ練習のバイエル本、あるいはフルートではアルテ教則本がありますが、これらに比べると尺八の教則本はシステマチックにできているとは思われません。(中略)
 現在は尺八の普及率が頭打ちになっていると聞きます。初心者が入門しやすい教則本があれば、若い人にも大いに普及するきっかけになるのではと考える次第です。」
 
●お便りのご意見、本当にごもっともだと考えます。取りあえずこのご質問に対してのお答えを述べさせていただきます。
 
 尺八を始められて2年目ということですが、こと尺八に関しては西洋楽器とは違った難しさ、悩みというものが出てきますね。
 例えば師匠についても、例えばフルートであれば音楽家年鑑のようなものが出ていますので、そこから連絡先を知って入門もできますし、音楽大学の先生であれば直接連絡も取れます。
 そして、西洋音楽では流派はありませんので、奏法はほとんど万国共通です。そこには先生の技量の上下があるだけです。
 しかし、尺八はまず自分の吹きたい奏法が、「何流」であるかを知らなければなりません。これは初心者にとって大変難しいことなのです。
 私自身、なんとなく山口五郎師のように吹きたいという気持ちがありましたが、当時尺八に流派があるとは知りませんでした。
 都山流に入門したのですが、だいぶん稽古も進んできたところで、「もしかしたら、この流派では、鹿の遠音や巣鶴鈴慕が習えないのでは?」と気づきました。
 結局、都山流の立派な先生でしたけれど、そして私自身の才能の無さから上達もおぼつかないのでやめてしまいました。
 その後、どうも琴古流に入門すれば鹿の遠音が吹けると言うことがわかってきました。町の琴古流の師匠に友達と稽古に行ったのですが、どうも「黒髪」からしか教えてもらえないということがわかりました。
 古曲はそれなりに良いのですが、本曲をしたい気持ちを抑えて、古曲を7,80曲上がりました。さて、いよいよ本曲だと思って勇んだのですが、どうもツメリがツ中に近い音で、山口五郎師と違うなあと思い、大変立派な師匠でしたが、稽古の足が遠ざかりました。
 そのまま本曲をしたい気持ちだけで、何となく新曲を吹いたりしていたのですが、幸いなことに製管師のK氏の知遇を得、私の悩みを聞いていただきました。
 非常に幸運なことに、氏のお骨折りでM先生を紹介していただきました。
 しかも、本来、古曲100曲ほど済まないと教えてもらえない本曲から教えてもらえるようになりました。本曲は皆伝級なのですが、本当に幸運でした。
 それから、技術的、音楽的にも未熟な私ですが、辛抱強く本曲の指導をしていただきました。
 未だに、十分本曲を本曲の心まで表現しきれていませんが、自分の演奏会では必ず1曲は吹奏するようにしています。
 
 長々と自分のことを記したのは、今の情報化時代でも自分の演奏したいスタイルを身につけるのに師匠選びはこれだけ苦労するということをいいたかったのです。しかも、私のように幸運に恵まれなければなかなか所期の目的を達成できないことも事実ではないでしょうか。
 大変悲観的なことを申し上げましたが、師匠選びのポイントを書きますので、参考にして下さい。
(本研究会で、貴市で稽古をつけている師匠は残念ながらいません)
・地元の邦楽演奏会に足繁く出入りし、これはと思った演奏家に、楽屋でいろいろお話を伺うこと。
・少し遠くても名の通った尺八講習会などをうけて、尺八愛好家と知り合いになり、情報交換をする。
 これくらいでしょうか。
 さて、ビデオテープ(私も作りましたが、)などで独習してもなかなか上達しないことを覚えておいて下さい。
「驥尾に付す」といいますが、上手な師匠の側でいるだけでも尺八は上達するものです。
 また、教則本等、会報に断片的に「試案」として発表してまいりまして今なら、いろいろな訓練法も網羅した教則本を書ける気もするのですが、私のような無名の奏者では販売網にも乗らず、せいぜい50〜100部ぐらいにならざるを得ない状況です。
 本研究会会報のバックナンバーから、抜き出して練習曲集としてお使いいただけたら幸いです。