会報 No.58
 
 4月号でご紹介いたしました「尺八吹奏法T」のお申し込み、有り難うございました。
 おかげさまで第1刷りの250部はすべて完売いたしました。
 しかし、まだまだお申し込みが続いていますので、今回第2刷りをいたしました。もし、ご入用の方はお申し込みください。
(申込方法は4月号に掲載)
 
 
尺八でジャズの演奏をするための手引き
貴志清一
 先般、本会員の方より、「尺八でジャズを演奏するにはどうすればよいでしょうか。」というご質問を頂きました。お答えいたします。
 
尺八という楽器を使ってジャズの演奏をすることの賛否は色々とあると思います。
 しかし、ご質問に可能な限りお答えするというのは尺八吹奏研究会の基本姿勢でもありますので、私の分かる範囲でお答えしたいと思います。
 まず、どの程度、尺八でジャズ演奏をしたいかということがあります。すなわち
1.本格的にアドリブを自在にこなし、プロのバンドをバックにしても演奏できる段階。
2.簡単なアドリブをして、小さなジャズグループでいっしょに演奏できる段階。
3.楽譜に書いてあるアドリブを吹けて、キーボードに合わせる
ことができる段階。
 
 以上の3点になるかと思います。このうち、1はジャズのプロ演奏家でない私としてはお答えできません。
 3に関しては五線譜を吹けてそこそこ指が回るだけで対応できますので、本会報で紹介しました、「五線譜入門」の記事を熟読していただければ良いと思います。
(このバックナンバーは現在入手不可能ですので、山本邦山師のすばらしい著書『五線譜による尺八教則本』をお読みください。)
 
 さて、2に関してその方法論を私の独断ですが述べたいと思います。
 まず、第一に五線譜を尺八譜に直さなくても自在に読めるようになることです。会報で紹介しました、「五線譜入門」の記事を熟読して何百、何千曲と、五線譜を読みこなして下さい。
 通勤通学の電車の中、少しの時間を惜しんで五線譜を読んで下さい。そして、読んだら実際に音に出してみましょう。
 お近くですと、五線譜の手ほどきをして差し上げられるのですが、せめて、町のピアノの先生とか五線譜をよくご存じの方に定期的に教えてもらうと良いでしょう。
 
 さて、五線譜がしっかり読めるようになり、尺八の音が自由自在に出るようになったと仮定します。
(尺八の演奏に関しては、まず甲ロを琴古のハロ、ハロ、ハローで鍛錬して、私の「尺八、毎日の日課」(『尺八吹奏法T』所収)を練習することをお勧めします。)
 いよいよジャズの重要な要素であるアドリブについての練習法法です。
 第一に、和音(コード)について文末の参考文献等で勉強しましょう。
 たとえばAm7という記号を見れば、10000分の1秒で
「これは、ラ、ド、ミ、ソの音の並びだな」と浮かび、すでに指がラなどにシフトしている状態になる必要があります。
 それができてから、いよいよアドリブというわけにはいきません。
 まず、アドリブの入門としてフェイクというものをマスターしましょう。その研究をしている中で、他の楽器、例えばサックスの有名な奏者の演奏を真似したりして、だんだんと自分のアドリブスタイルを研究していきましょう。
 ここで、フェイクとアドリブについて説明します。
 メロディの原型を完全に崩すことなくおこなわれるアドリブをフェイク(fake)といいます。つまり、アドリブがメロディから完全に離れてしまうということはなく、あくまでも、メロディラインに沿っておこなわれます。そして、常にメロディの特徴(キャラクター)をとらえ、それを生かしていくという奏法がフェイクです。したがって、フェイクすることはアドリブすることに他なりません。少なくともフェイクは、アドリブの一分野に属するものです。
 
 ジャズの初期の頃、「より自由なソロプレイをする」ことをFEKEすると言いました。より自由なソロプレイといっても、即興演奏の技術が未だ発達していなかった頃ですから、それが今日のアドリブのように、メロディから完全に解放されてしまうというのではなく、あくまでもメロディラインに沿って即興演奏がなされると言うものでした。
 即興演奏の技術が格段の進歩をとげた現在、「より自由なソロプレイ」は、もはやフェイクすることではありません。
 しかし、この初期のアドリブ奏法とも言うべきフェイクは、現在でもアドリブの導き役として、またコマーシャルジャズの分野において、重要な存在です。
 さらにより高度なアドリブテクニックを修得するための過程として、フェイク奏法を十分に修練することが大切であることは、何時の時代にもいえることです。
 また、アドリブ(ad-libitum)は「記譜された音に対して随意に」との意味ですが、ジャズではもっと広い意味に解されます。
 即ち、メロディを自由にくずして奏することは勿論、記譜されたメロディから完全に解放され、そのコード進行(CHORD progression)のみにしたがって、演奏者が自由に創作すること、これがアドリブです。
 取りあえず、尺八でジャズ、アドリブ演奏することは以上のようなことを頭に置いておかなければなりません。
 
 しかも、尺八という楽器の特性もあります。日本の尺八古典本曲の時は、尺八のピッチの悪さ、歯切れの悪さ、音の出る効率の悪さ(軽い息で朗々となるフルートがうらやましくなりますが)が逆に「日本的」美意識に叶い、かえって長所となります。
 しかし、元々西洋楽器を使った演奏で発達してきたジャズは、この尺八の特性が短所になります。
 コードに沿って進行しているのに、何の音かわからないのでは困ります。また、ジャズの生命とも言うべき「あと打ち」を強調するためには尺八の歯切れの悪さは致命的です。
 いっそう、日本に住んでいるアメリカ人の○山氏のように尺八をフルート的に扱うしかありません。
 
 私個人としては、客寄せパンダ的演奏会でもジャズ風な曲は避けています。中南米のケーナの曲どまりです。ジャズ風の曲を吹くのであればフルートを使えば良いと思っているからです。
 
 私のことはさておき、以上のような困難を念頭に入れて「尺八でジャズ」を志すのであれば、頑張って下さい。
 最後に「夕焼けこやけ」のフェイクの実際と、参考文献を掲載いたします。(ご質問の方にはテープをお送りします)
 ※参考文献は著作権の関係で掲載いたしませんのでご了承ください。。