会報 No.6

論説 教則本から見た西洋と日本 貴志清一

       
本当に尺八に関する著作・教則本のたぐいの少なさには困ります。
おそらくこのことは西洋の楽器に比べてのことでしょう。西洋以外ではあまり 一つの楽器
について膨大な数の著作・教則本があるということは聞きません。 
私の乏しい知識の範囲ですが、今から二百数十年前にはもうフルートのための 立派な教本
がありました。クヴァンツの本です。 それからモーツアルトのお父さんのレ オポルト・
モーツアルトはヴァイオリンの教則本を書いて有名です。
とにかく万人が一定レベルに達するために惜しみもなく自分の経験を後進に伝える
という伝統が西洋にはあります。
 
ひるがえって日本の伝統音楽ではどうでしょうか。一子相伝、秘伝、極意、口 伝秘すべし・・・
そこには、熱意はあるのだが経験がないために上手くならない弟子を何とか上 手にさせよ
うという姿勢が感じられません。 あたかも師匠は『自分より弟子の方が上手 くなっては
いけない、飯の食いあげだ』といわんばかりです。 これは人から聞いた話な のですが、
『必ずしも全部が全部そうとは言えないけれど、西洋では師匠は自分の弟子を 何とか自分
より上手くしよう、上手くしようとする。そして、自分の弟子が上手くなると 言うことは
師匠である自分の名誉になる。それ故師匠は弟子に全身全霊を込めて教えよう とする。』
というものです。 実際私の尊敬するフルートの神様と言われるマルセル・モ イーズのレ
ッスンを受けた人の体験談ではまさにそうです。(との対話全音楽譜出版社)  
ですから西洋の楽器では、それこそありとあらゆる種類の教則本があります。 そしてそれ
が時間の経過とともに淘汰され本当によい教則本が残ります。又、新しい視点 からの教則
本も出てきます。 ところが残念ながら尺八に関しては本当にいい教則本が少 ないのです。 
尺八の吹奏理論にしても、私の「尺八吹奏の基礎」の内容などはもう明治・大 正頃に出て
いても不思議ではありません。そして、今ごろその理論の誤り、不完全さを乗 り越えた本
当によい「尺八吹奏の基礎」本が出ていてしかるべきなのです。 
ですが、実際はそうではありません。私の存じ上げている方などは、「尺八吹 奏の基礎」
の冊子を持って稽古にいくと「ほかの弟子に絶対見せるな」と目で叱られたと 伺っていま
す。このような中ではいい尺八の教則本など生まれにくいと思います。ただ私 も含めて古
い悪い習慣から脱して本当にみんなが尺八を上手に吹けるようになってほしい という考え
方も徐々にでてきています。 製管の方もそうです。私の尊敬する製管師さん のなどは笑
い話で「よくお客さんから、『あなたの作った尺八はよく鳴りすぎる』と苦情 を言われる
のですよ。いい音色で甲・乙ともよく鳴ったらどこが悪いのですかね。」とお っしゃって
いました。 私は製管の方はまったく分かりませんがこの話をなされた製管師 の尺八を八
寸・六寸とも使っていますので、なるほど製管の方でも研究をすれば、よく鳴 る竹が出来
るのだと思います。  
さて取りあえず、今の時点で出版されている教則本を紹介して読者の方々への 参考に提供
したいと思います。これは昨年邦楽ジャーナルの特集にもなりましたので、詳 しくはそち
らの方を見てください。  

「尺八のすべて」NHKカセット「古屋輝夫のビデオによる尺八通信講座」
「尺八入門 本曲への道」徳山 隆
「村岡実 現代尺八講座」
「菅原久仁義のビデオによる鳴るほど・ザ・尺八」(※このビデオは私も拝見 いたしまし
 たが、いちばん大事な口腔前庭を指で押さえてつぶして吹くように指導して おりますの
 で、疑問に思っております)
「横山勝也尺八入門」
「五線譜による尺八教則本」山本邦山(五線譜のためのよくできた教本です。 )
「尺八教則本」青木 静夫
「現代尺八独習」磯野 茶山
「やさしい尺八入門」石高琴風
「尺八独習」石高琴風
「都山流(五孔七孔)尺八入門」鈴木帝山
「都山流音譜解説」(都山流尺八道場編)
「琴古流尺八独習」草野鈴風
「尺八」ジョン海山ネプチューン(英語で紹介)
「THE SHAKUHACHI a manual for Learning」クリストファー遥盟

 邦楽ジャーナル1995年 8月号 より


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