インターネット会報No.64
 
 
独学か、師匠探しか?
貴志 清一
 本研究会会員N氏より「独学ではなかなか上達しないので、何かよい教則本はありますか?」とのお便りをいただきました。
 このご質問に対して私なりに回答させていただきます。
 
 さて、お書きの通り独学だけではなかなか上達しないと思います。
 むしろ、独学で上達すること自体無理なのでしょうね。
 そこで、よい教則本は?となります。
 しかし、本来よい教則本は良き指導者が、弟子に適切な練習課題を与えるために作成されています。
 すなわち、教則本は“指導者がいるという前提”で作成されているものです。
 巷には“独習尺八”、”一人でふける尺八”“1ヶ月間マスター尺八”等々出回っているかも知れません。
 しかし、尺八に限らず楽器は一人では吹けないし、1ヶ月ではマスターできないし、独学でも上手くなりません。
 始めに上手くない師匠につくと、上達しないという危惧があるかも知れませんが、私はこう思います。すなわち、
 
上手くない師匠につくにしても、独学よりは100倍優る。

 もう20年以上前になりますが、どうしても尺八を吹きたいと思いました。もちろん、まだ楽器は持っていませんでした。
 西洋楽器をいじった経験から、とにかく、どんな先生でもいいから、手ほどきを受けるのが上達の秘訣だということは知っていました。
 都山も琴古も民謡尺八も違いのわからない頃でした。
 近所の民謡クラブにお越しの尺八の先生を紹介していただきました。土橋先生とおっしゃいます。
 尺八はあまりお上手ではありませんでしたし、元々民謡専門で地歌なども教えていません。
 しかし、〈全く吹けない私〉よりは〈何百、何千倍上手〉です。
 見よう見まねで、吹く内に、やはり目の前に音を出している師匠がいるだけで良い勉強ですね、すこし尺八が吹けるようになりました。
 ツメリがツ中になっていましたが、「船頭小唄」や「花笠音頭」が出きるようになりました。確か1年弱の間だと記憶しています。
 もし、独学で“尺八独習”的な本だけで吹いていますととても1年ではできなかったでしょう。
 土橋先生はあまり尺八がお上手ではありませんでした。しかし、前回の会報でも触れましたが、師としては大変立派な方だと思います。
 ご自分の力量は承知されていまして、「ここで習っていても上達しない、しっかりした先生のところへ紹介したい。」と言われました。
 民謡尺八ですので、古曲の先生はあまりご存じありませんでした。しかし、あちこち聞いてみて都山流の池田静山(2代目)先生がいいということで、直接私のために交渉にいっていただきました。
 都山流の方なら池田静山師は知らない人はいないでしょう。
 私の先生の熱心さで、それ以後2年間、池田先生に教えを受けることになります。
 細かいことはほとんどご指導にならなかったですが、この時の池田静山先生の吹く姿(アンブシュア)と音がどれほど為になったか、測り知れません。
 この後、川崎銀豊先生、松村蓬盟先生に教えていただくのですが、詳しくは別の機会に譲ります。
 いずれにしましても、私は大変先生に恵まれたのではと思っています。
 それも最初に、とにかく先生に就いたということが基礎になっています。
 長々と自分のことを書いたのは“とにかく師匠に就くのが一番の上達の基本である”ということを言いたかったのです。
 
 私の「尺八吹奏法T」を関西方面の方も随分お読みになられています。
 しかし、文字だけではなかなか理解がいかないことも事実です。
 “口腔前庭とは実際どんなようすか”“上唇の丸みの意味は”
“毎日のウオーミングアップは実際どう吹いているのか”等々、
 文字だけで事足りるということなのでしょうけれど、やはり技術を伴うことは百聞は一見にしかずといえましょう。
 
 結局常識的な結論になりますが、良い教則本を一生探し回るより、取りあえず苦労はしても師匠を捜すのが良いかと思います。