会報 No.70    

ロツレチ式譜面は不滅です
貴志 清一
 本会会員のK氏より次のようなご質問をいただきましたのでお答えいたします。
 
 現在、都山流の先生に就いていますが譜面に違和感があります。尺八をもっと一般的なもの、初心者がとりつきやすくするためにも五線譜を使うべき時代にきていると思います。
 都山流や琴古流の仮名文字の譜面には、伝統以外にどんなメリットが有るのでしょうか。
 
 一口言いますと、尺八のロツレチ式譜面は本曲を演奏するのに大変都合がよいのです。
 ある程度西洋音楽の訓練を受けた演奏者なら、メリ音は反射的に西洋音階の半音をイメージするかも知れません。
 尺八のメリ音は若干西洋音階の半音とほとんど同じですが、かといってまったく同じではありません。
 西洋音楽を高いレベルで修得している、または演奏できる器楽奏者なら、
「尺八の本曲の半音は、西洋音楽で使う半音でもなく、丁度山口五郎その他の名人が吹いている半音である。」と理解できます。
 しかし、これだけピアノやその他の西洋楽器の音があふれている現代、単に五線譜で記譜すると、どうしても安易に平均律の半音になってしまいやすいのではないでしょうか。
 そしてもっと困ったことに甲の「ウ」というようなチメリよりは低いが、レよりは高いといった微分音は五線譜では表しようがありません。
 表しようがないといえば、本曲で使う甲の二四五のハや四五のハは朗々と吹くと音がうわずります。このうわずった音程が何とも言えない情感を表します。まさか五線譜の♪音符の上に“八分の3半音うわずってください。その音からだんだんうわずり幅を増やしていってください。”という七面倒くさい、そして不正確なことも書きようがありません。
 その上尺八本曲を五線譜で表すと、半音をまだメル「折り」や、ナヤシ、その他「コロ」などを文字で書くとかえって煩雑になることは明らかです。
 それなら、いっそ、元のままのロツレチ式記譜のが何十倍、何百倍優れています。
 有名な「竹五章」を作曲した諸井誠氏も五線譜の「竹籟五章」を
「あくまでも五線譜は便宜上のもので、竹保流のフホウエ式の楽譜が“竹籟五章”である」と言う意味のことを明示しています。
 
 さて、歌謡曲のように五線譜でもって作曲されたものは、これは五線譜のほうが尺八で吹いてもわかりやすいと思います。
 私も演奏会で、唱歌、歌謡を吹くときは五線譜を活用しています。
 ですから、ロツレチ式楽譜を基本として五線譜を併用していけば良いのではないでしょうか。
 ロツレチ式楽譜と五線譜は共に相容れないものではなく、共存していくべきものだといえます。