2003年2月号 「モイーズとの対話」(元37号)  貴志 清一

  口腔前庭理論(上唇裏の小さな空気部屋) &ユニバーサルアンブシュア(発音前の舌先と下唇の接触) の元になったもの                              
インターネット上で以前、何回となく紹介してきました「口腔前庭」や「ユニバーサルアンブシュア」は自分自身の尺八吹奏理論のためのものです。  ただ、これらの理論が割合他の人にも有効であるということがわかり、いままで幾度となく発表してきました。  しかし、これらの理論が何もないところから出てきたのではありません。今回は、その一つの示唆になった著書を紹介いたします。  詳しくは、実際にこの本を手にしてみることをお薦めします。  

それは、「モイーズとの対話」(全音楽譜出版社)です。  いま、この「モイーズとの対話」の一部を引用させて頂きます。  

○口腔前庭(こうくうぜんてい)のヒントになったのは次の一文です。   「上唇と上歯の間には常に空気がたまっていなければいけない。これはコントロールにたいへん関係があるのだ。」    この文を見まして、はたと気がついたのです。学生のころ遊びでサキソフォーンを吹いたりするとき、当然上唇と上歯の間には息がたまるようにして吹奏しました。そうすれば音色がよくなり、音のコントロールがしやすくなるからです。  これが口腔前庭で、尺八にも有効なのだと気がついたのです。 ただ尺八の場合は、サキソフォーンと違って、唇を巻き込むようにしてはいけませんし、唇に力を入れてもいけません。  息に押されて自然とできる口腔前庭が有効なのです。このことに気がつき、自分なりに納得できるようになりました。そうすれば音のコントロールに関しては余り苦労をしなくても済むようになりました。それから、偏心角に気をつければ乙音に関してもさほど苦労をしなくてもよいようになりました。勿論毎日の練習はきちんとしてからの話しです。    

名人的な演奏にはほど遠いのですが、音を出すだけならあまり悩まなくなりました。そしてひるがえって自分の周りを見渡しますと、20年も30年も尺八を吹いているのに、そして心にいつも「うまくなりたい」いう強い願望を持っていながら合理的でない吹き方をしているばっかりに満足な音がでないという人が大変多いと気づいたのです。    

音が出ない辛さ、悲しさをいやというほど味わった私ですから、音の出にくい尺八愛好家の為に非才を省みず「尺八吹奏法T」を著したのでした。それには合理的な唇を手に入れるための「毎日のウオーミングアップ」も掲載しています。

前書きが大変長くなりましたが、以下この本の重要箇所を引用させていただき、会員の皆様のご参考とさせて頂きます。    

○腹式呼吸について P.97  腹式呼吸については、息を吸い込む前の段階として身体から無駄な力を全部抜いて腹だけ少々力をいれ、咽を広げておくことが大事だ。そして太い息を胸に次に腹に吸い込む。腹壁は一様に張りつめているが、特に後腹部に息が入るように鍛錬しなければいけない。問題は排気の時だ。横隔膜を下に押し下げながら排気するわけだ。空気が出るにしたがって腹部がへなへなと柔らかく小さくなっていってはいけない。腹のそこに力を入れながら吹けば良い。腹部は常に同じ強さで張っていることになる。  

○唇について  (尺八は)あたかも口笛を吹くように吹けばよいのだよ。口笛を吹いているときは唇を完全にフリーの状態にある。(尺八)が鳴るためには唇がまず鳴らなければならない。口笛を吹いているときは、唇が歌っている状態なのだ。唇を締めたりしてはいけない。口笛がよく鳴っているときに、空気が口内でどういう状態にあるかを考察することだ。  口笛を吹くのは、唇の粘膜のどの部分に空気があたるかを覚えるためだ。もちろん(尺八)を吹くときは口笛を吹く状態でやや横へ引いた感じがよい。 ーー 口笛が鳴るためにはどうしても息が柔らかい粘膜の部分のみを通過して外へ出ないとダメですね。 ・・そのことは非常に大事なことだ。    

○口腔前庭理論の元になった箇所 ーモイーズ先生の上唇は宙にふわりと浮いているような状態ですね。 ・・その通り。上唇と上歯の間には常に空気がたまっていなければいけない。これはコントロールにたいへん関係があるのだ。 (下唇裏の口腔前庭は作らない方がよい。それは、下歯による気流の乱れを作ってしまう。)  

○高音をちいさく吹く  たとえ高音域の小さい音でも決して唇をしめたりして出そうとしてはいけない。  そして静かに吹いているときでさえも、唇がフリーに振動して歌っていなければいけない。音が強いときに唇が歌うのはそうむずかしことではないが、小さい音のときほどそれが重要なのだ。  聴衆の心を引きつけるのは小さい音での美しい歌である。  

○現代の演奏家に対する忠告は  心で感じて演奏できるように、その心をいかに高く育てたらよいかを考え、それに向かって突進すること。  (尺八)で(尺八)の音を出さずに、音楽できる音を創造するべく努力すること。  指が動くだけでは今に人間は不要になってしまう。機械がもっと確実にやることができる時代がくるだろう。(注 もう来ている)  しかし機械には”心”がない。何事もまず我々が人間であることを忘れず、常に人間性とは何かを考えて行動することに機械の及ばない人間だけの世界があるのだ。  

その人の人間を語る深い音楽的な音で、その人の高い心で感ずるままに演奏される音楽が聴く者を感動させ、それが心の平和、ひいては人間の平和、世界の平和につながるのだ。若い人々に大いに期待したいのである。